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金融庁長官、超長期国債の含み損拡大など3つの危機シナリオ提示=関係筋

2017年07月21日(金)17時57分

 7月21日、金融庁の森信親長官が、地域金融機関の首脳らが集まる会合で最近の金融機関の経営姿勢に関連し、超長期国債の運用で含み損の発生や拡大といった金利リスクが顕在化するケースなど、金利上昇時における3通りの危機シナリオを提示し、安易な経営は将来のリスクを増大させると警鐘を鳴らしていたことが明らかになった。写真は都内で6月撮影(2017年 ロイター/Issei Kato)

[東京 21日 ロイター] - 金融庁の森信親長官が、地域金融機関の首脳らが集まる会合で最近の金融機関の経営姿勢に関連し、超長期国債の運用で含み損の発生や拡大といった金利リスクが顕在化するケースなど、金利上昇時における3通りの危機シナリオを提示し、安易な経営は将来のリスクを増大させると警鐘を鳴らしていたことが明らかになった。複数の関係筋が明らかにした。

また、本業の赤字をカバーするため有価証券運用でリスクを取り、当期利益をプラスにしている金融機関があると述べた。森長官は地銀に対し、余力のあるうちに持続可能性のあるビジネスモデルを構築するよう要請した。

関係筋によると、森長官が出席した会合は、7月12、13日の2回に分けて開催された。その席上、森長官は、国内において人口減少、金利低下が継続したことにより、金融システムの脅威はバランスシートの健全性から損益計算書(PL)における収益性の問題に移行したと指摘。長短金利差に頼り、信用の高い先や担保・保証のある先への融資、国債への投資だけで「収益を上げるシンプルな銀行業のビジネスモデルが成り立ちにくくなってきた」と述べた。

そのうえで希望的観測を前提として行動してはいけないのは、監督当局も経営者も同じであるとし、3つの好ましくない(危機的な)シナリオを提示した。

1つ目は、金利上昇により調達コストが上昇する一方、全体としての預貸率が低い中で金利競争が続くことにより、貸出金利がさほど上昇せず、貸付スプレッドがさほど改善しないというシナリオ。

2つ目は、現在の低金利下でとった金利リスク、たとえば超長期の国債投資によるものなどが顕在化し、有価証券の含み損が発生、あるいは拡大し、さらにキャリー(イールドカーブを固定した場合に得られるリターン)がマイナスになるシナリオ。

3つ目は、金利上昇により信用コストが上昇するリスク、特に長年続いたゼロ金利の下で本来の信用リスクをカバーできない低金利での貸付が赤字化するシナリオ。

森長官は「これらのことが起こる確率は決して低くない。経営のやり方によっては今より状況が悪化する可能性も十分想定しなくてはならない。他方で低金利環境が予想以上に長く続くシナリオも存在する」との見解を示した。

そのうえで「近い将来に健全性の問題を招くようなビジネスを続けている金融機関経営を見過ごすことはできない」と述べ、「本業の赤字をカバーするために有価証券運用でリスクを取り、当期利益を何とかプラスにしている金融機関が存在する」と明言した。

「有価証券の含み益が少ない、あるいは含み損がすでに存在している金融機関、または自己資本のバッファーが少ない金融機関に残された時間は多くない」とし、「決算数字を良くするために明日のことを見ない証券運用をしたり、顧客の利益を考えない目先の収益稼ぎで貴重な時間を浪費すると、打つ手がなくなり行き詰まってしまう」ことを懸念。

地銀トップに対して「余力のあるうちに将来に向けて持続可能なビジネスモデルを作っていただきたい」と取り組みの加速を促した。

関係筋によると、対外非公表の会合での発言ながら、地域金融機関の経営スタンスに関してこれほど具体的かつ強く警鐘を鳴らしたことはいまだかつてなく、出席した地域金融機関の首脳の間では、経営の抜本的な見直しを真剣に考えるムードが強くなったという。

地銀の中には、外国債券の含み損などを抱え、経営のバッファーとなる資本が実質的に薄くなっているところもあり、金融庁も詳細な実態把握を急いでいるとみられる。

今回の森長官の発言に関し、ロイターは金融庁に見解を求めたが、金融庁の広報担当者からはコメントを得られなかった。

(伊藤純夫 和田崇彦 編集:田巻一彦)

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