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世界の債務1京8000兆円、FRB資産縮小で収縮に警戒

2017年09月22日(金)16時35分

 9月22日、米連邦準備理事会(FRB)は資産縮小を決定したが、市場との丁寧な「対話」で織り込みが進んでいたため、今のところマーケットに波風は立っていない。写真はワシントンで昨年10月撮影(2017年 ロイター/Kevin Lamarque)

[東京 22日 ロイター] - 米連邦準備理事会(FRB)は資産縮小を決定したが、市場との丁寧な「対話」で織り込みが進んでいたため、今のところマーケットに波風は立っていない。しかし、世界の債務は1京8000兆円に達し、実体経済よりも高い伸び率を示すなどマネーは急膨張している。金融相場を主導してきた政策の転換だけに、長期的な影響は軽視できない。

<GDP上回る債務増大>

国際決済銀行(BIS)のデータによると、政府と民間を合わせた世界全体の債務は2016年末時点で159兆6070億ドル(約1京8000兆円)。10年間で62兆ドル(約7000兆円)増加した。増加率は63%と同期間の世界の国内総生産(GDP、2016年で75兆ドル、世銀)の伸び率47%を上回る。

債務膨張の大きな要因は金融緩和だ。08年のリーマン・ショック後、世界の主要中央銀行は非伝統的な金融緩和策にかじを切った。FRBは量的緩和策(QE)を3回にわたり実施。欧州中央銀行(ECB)と日銀もQEを実施するなど、先進国は政府部門の債務が大きく膨張しているのが特徴だ。

FRBの資産は、08年時点の約9000億ドルから約4兆5000億ドル(約500兆円)と5倍に増大している。縮小のペースは当初100億ドルずつと極めて緩やかであるほか、資産規模も元に戻すのではなく、経済の拡大なども視野に入れ、2兆ドル程度に着地させるのではないかとの見方が有力だ。

とはいえ、FRBはこれまでに利上げを4回実施してきたが、資産の縮小は20日の米連邦公開市場委員会(FOMC)まで見送ってきた。「過去に例のない大規模な緩和策であり、縮小すれば何が起きるかわからない」(三菱東京UFJ銀行・シニアマーケットエコノミスト、鈴木敏之氏)からだとみられている。

<株式や不動産にマネー流入>

米株は史上最高値を連日更新。S&P500<.SPX>の予想PER(株価収益率)は歴史的にみて15倍程度が平均だが、現在は17倍後半。ITバブル時の28倍には及ばないが、割高感は強くなっている。

「PERの上方シフトは、世界的な低インフレ化など他の要因も考えられるが、タイミング的にFRBのQE3開始と一致する。資産縮小でどのような影響が出るか警戒が必要だ」(T&Dアセットマネジメント・チーフエコノミスト、神谷尚志氏)という。

不動産にもマネーが流入。不動産会社Savillsの調査によれば、世界のすべての不動産価格の合計は、約2京4000兆円(2015年末)。マネックス証券・執行役員の大槻奈那氏によると、BISデータの住宅価格上昇率から推測される世界の不動産価格の上昇幅は、過去10年で6400兆円にのぼる。

大槻氏は「現在は、サブプライムのときのような大きな問題があるわけではない。しかし、膨張したマネーがみな同じペースで緩やかに縮小していけばいいが、リスクが高いとみられている業界や企業などからの資金流出は、強く速くなりがちなのが過去の例」と語る。

金融政策が「正常化」されたなかで、経済が自立して成長していけるのか。一向に上がらない長期金利やインフレ率が、疑問符を投げかける。資産効果(株高による消費刺激)に多くを頼っているとすれば「経済がしっかりしているから、株は大丈夫」との楽観論には影が差す。

<日本も政府部門が膨張>

日本も債務膨張に歯止めがかからない。BISによると、政府と民間の債務合計は約1992兆円。この10年で357兆円増加したが、民間部門が減少しているのに対し、政府部門は371兆円の増加だ。20年の財政健全化目標が先送りされれば、さらに歳出拡大圧力が強まる可能性は大きい。

間接的ではあるが、政府の債務膨張を許している要因の1つに日銀の存在がある。超低金利によって国債の利払い費が抑制され、国債は発行しやすい環境だ。さらに市場を通じているとはいえ、年間60─80兆円のペースで長期国債を買い続けている。

日銀の資産は約500兆円。量的・質的金融緩和策(QQE)導入前の13年3月末と比較すると3倍超に増加した。国債だけでなく、ETF(上場投資信託)も年間6兆円ペースで買い続けており、売り越し基調に転じている海外勢とは対照的に、日本株の筆頭買い主体となっている。

米株ほどの過熱感はないが、東証1部の時価総額は過去最高を更新。時価総額を名目GDPで割った「バフェット指数」は1倍を上回り、調整サインが点滅している。

FRBの資産縮小を機に、海外勢が緩和マネーを株式市場から引き揚げたとしても、日銀のETF買いが日本株を支えるかもしれない。緩和長期化は円高圧力を弱めるだろう。歳出増があれば短期的に景気を支えるのは間違いない。

しかし「財政ファイナンス」の色彩が一段と濃くなったとしても、警告を示すはずの債券市場は、日銀による国債大量購入の影響で機能低下が否めない。「円高リスクよりも大きなリスクを抱え込むことになる」と日本総研の河村小百合氏は懸念している。

(伊賀大記 編集:田巻一彦)

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