ニュース速報

ワールド

焦点:北朝鮮、ICBM実戦化には新たな核実験必要か

2017年08月19日(土)10時11分

 8月17日、北朝鮮は米国本土の全域を射程圏に入れた大陸間弾道ミサイル(ICBM)を開発したと宣言している。事実だしても、金正恩朝鮮労働党委員長にとっては最終目標を達成する上で困難な課題が待ち受ける。写真は、「誰もわれわれを止められない」と書いてある北朝鮮のポスター。KCNA提供(2017年 ロイター)

[ソウル/ワシントン 17日 ロイター] - 北朝鮮は米国本土の全域を射程圏に入れた大陸間弾道ミサイル(ICBM)を開発したと宣言している。事実だしても、金正恩朝鮮労働党委員長にとっては最終目標を達成する上で困難な課題が待ち受ける。

つまり射程距離を犠牲にしないで済むような弾頭の小型軽量化と、大気圏再突入を成功させる技術の獲得だ。複数の専門家は、こうした問題をクリアするために少なくともあと1回、通算で6回目の核実験と、長距離ミサイルのさらなる発射実験が必要だとみている。

弾頭軽量化に最適な方法の1つは、核融合反応をする水爆の開発に専念することになる。水爆はサイズや重量に比して爆発力が極めて大きい。

米国科学者連盟の原子力情報プログラムのディレクター、ハンス・クリステンセン氏は、北朝鮮は水爆実験を行ったと主張するがそれはまだ証明されていないと指摘。水爆実験に至るまでにはあと数回の実験を経なければならないだろうと予想した。

立命館大学教授で、かつて韓国の統一研究院所長を務めていたChoi Jin-wook氏は、6回目の核実験は北朝鮮にとって必要不可欠なものになると指摘。「核兵器を実戦配備するために小型軽量化は必須だが、北朝鮮はこの技術を手にしていないように見える」と述べた。

<タイミングを瀬踏み>

金正恩氏は、新たな核実験に踏み切るとしてもそのタイミングは慎重に見極める公算が大きい。この実験は唯一の同盟国である中国を怒らせ、7月のICBM実験を受けて発動された国連の経済制裁が一層厳しくなるとみられるからだ。

ある米政府高官は、北朝鮮の豊渓里核実験場では1カ月余りにわたって活動が見られず、実験が差し迫っている兆しは見当たらないと話す。また別の米政府高官によると、北朝鮮は数カ月前から核実験に向けた態勢は整えてきたが、そこから新たな動きはないという。

複数の専門家の話では、北朝鮮の科学者らはICBMが宇宙空間を飛行した後で大気圏に再突入する際の高温や圧力から弾頭を保護する技術もまだ獲得していない。

韓国国防省高官は13日、北朝鮮が再突入技術を得るのは最低でも1年か2年先になると韓国側が想定していることを明らかにした。

米非営利団体、科学国際安全保障研究所(ISIS)の創設者デービッド・オルブライト氏は「米国を狙うICBM(開発)で弾頭小型化は数ある課題の1つにすぎない。再突入体が生き残り、弾頭が正常に機能しなければならない。北朝鮮がこれらのすべての手順をものにしているとは思えない」と語った。

<体制存続に不可欠>

一部の専門家は今年1月にも6回目の核実験が行われるとみていた。ただ今年に入って北朝鮮は、さまざまな種類のミサイル発射実験にほとんどの時間を費やしている。

7月にはグアム島周辺に中距離弾道ミサイルを発射すると警告し、その後延期を表明する場面もあった。

韓国のムン・ジョンイン大統領補佐官は、北朝鮮が再び核実験を強行するなら、中国を含めた国際社会からの制裁が一層厳しくなると強調。「北が6回目の核実験をすれば、中国は石油供給を減らす公算が大きい。中国は北に対して、これ以上核実験をするなと強く警告していると信じている」と述べた。

豊渓里核実験場は、中国との国境から100キロメートル、ロシアとは200キロメートルしか離れておらず、過去の核実験時に両国は反発して厳格な国連の制裁支持に動いている。

それでも金正恩氏は、米国に核の脅しをかけられることは自身の支配体制を維持していく上で欠かせないと考えている。

高麗大学のYoo Ho-yeol教授は「北朝鮮は米国を交渉の場に引き出すために6回目の核実験を遂行するだろう。それがいつかは分からないが、北にとって6回目の核実験の方がグアムにミサイルを発射するよりも危険は小さい」と説明した。

(Christine Kim、David Brunnstrom記者)

ロイター
Copyright (C) 2017 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米GDP、第1四半期は+1.6%に鈍化 2年ぶり低

ビジネス

ロイターネクスト:米第1四半期GDPは上方修正の可

ワールド

プーチン氏、5月に訪中 習氏と会談か 5期目大統領

ワールド

仏大統領、欧州防衛の強化求める 「滅亡のリスク」
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP非アイドル系の来日公演

  • 3

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗衣氏への名誉棄損に対する賠償命令

  • 4

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 5

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 6

    未婚中高年男性の死亡率は、既婚男性の2.8倍も高い

  • 7

    やっと本気を出した米英から追加支援でウクライナに…

  • 8

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 9

    自民が下野する政権交代は再現されるか

  • 10

    ワニが16歳少年を襲い殺害...遺体発見の「おぞましい…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこ…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 9

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中