コラム

SVB、クレディと続いた金融不安が「ひと段落」とならない訳...日本はむしろこれから

2023年04月05日(水)17時35分
SVBとクレディ・スイス

FROM LEFT: BRIAN SNYDERーREUTERS, ARND WIEGMANNーREUTERS

<一連の問題は個別の要因で起こったものではあるが、背景には世界の金融システムに共通する「バブルのツケ」という深刻な事情が>

米シリコンバレー銀行の破綻やクレディ・スイスの経営不振など、金融システムに対する不安が広がっている。一連の問題は個別の要因で起こったものであり、金融システム全体に欠陥があるわけではない。

だが、同じタイミングで金融機関の経営問題が複数発生した背景には、アメリカの中央銀行に相当するFRB(連邦準備理事会)の急激な利上げがある。

FRBが急ピッチで利上げを行っているのは、これまで行ってきた大規模緩和策の弊害が大きくなってきたからであり、一連の金融不安は緩和策バブルのツケと考えてよいだろう。

FRBは2023年3月22日に開催したFOMC(連邦公開市場委員会)で0.25%の利上げを決めた。銀行の相次ぐ破綻を受けて、政策金利の引き上げを据え置くとの見方もあったが、FRBはインフレ抑制を最優先し、金利引き上げを継続した。

金利が上昇すると債券価格が下落するため、金融機関によっては損失が発生する可能性がある。金融機関の多くは調達金利と貸出金利の差額(利ざや)を収益源としているので、利上げは本来、追い風となる政策だが、金利上昇ペースが速すぎた場合、資産価格の変動で損失を被るケースが出てくる。

不安の払拭に必要な手が打てない

一連の経営不安を払拭するには、利上げを停止する、あるいは利下げに踏み切るといった措置が必要だが、今の中央銀行にはそれができない深刻な事情がある。過去10年にわたる大規模緩和策によって全世界に大量のマネーがばらまかれており、これを回収しなければ、インフレが手が付けられなくなるリスクを負っているからである。

リーマン・ショックをきっかけにアメリカをはじめとする各国の中央銀行は、市場に大量のマネーを供給する大規模緩和策の実施に踏み切った。07年の段階で1兆ドル以下であったFRBのベースマネー(中央銀行が直接、供給する貨幣の量)は、ピーク時には6兆ドルを超える水準まで膨らみ、実体経済の規模を大きく上回った。

経済成長を超えたマネーの供給は潜在的なインフレ要因であり、この状態を放置した場合、インフレが制御不能になるリスクを抱え込んでしまう。

FRBやECB(欧州中央銀行)は金利の引き上げなど、マネーの回収に乗り出しており、膨らみすぎた緩和策バブルの手仕舞いを開始している。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ロシアとの戦争、2カ月以内に重大局面 ウクライナ司

ビジネス

中国CPI、3月は0.3%上昇 3カ月連続プラスで

ワールド

イスラエル、米兵器使用で国際法違反の疑い 米政権が

ワールド

北朝鮮の金総書記、ロケット砲試射視察 今年から配備
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岸田のホンネ
特集:岸田のホンネ
2024年5月14日号(5/ 8発売)

金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口......岸田首相がニューズウィーク単独取材で語った「次の日本」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 3

    「終わりよければ全てよし」...日本の「締めくくりの文化」をジョージア人と分かち合った日

  • 4

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 5

    ウクライナの水上攻撃ドローン「マグラV5」がロシア…

  • 6

    「未来の女王」ベルギー・エリザベート王女がハーバー…

  • 7

    横から見れば裸...英歌手のメットガラ衣装に「カーテ…

  • 8

    「私は妊娠した」ヤリたいだけの男もたくさんいる「…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    ブラッドレー歩兵戦闘車、ロシアT80戦車を撃ち抜く「…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 3

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 4

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 5

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 6

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 7

    ウクライナ防空の切り札「機関銃ドローン」、米追加…

  • 8

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 9

    休養学の医学博士が解説「お風呂・温泉の健康術」楽…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 7

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 8

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story