コラム

英・仏独3首脳の表情から読み解くEUとブレグジットの本音

2017年12月15日(金)14時29分

吹っ切れたような表情をしてEUにやって来たメイ英首相(12月14日、筆者撮影)

[ブリュッセル発]イギリスの欧州連合(EU)離脱交渉が通商協議入りで合意したこと
を受け、14、15の両日開かれたEU首脳会議は合意内容を承認した。ドアステップ(玄関口)で次々と到着するEU首脳を待ち構えていると、表情とコメントからEUとブレグジットの実相が浮かび上がってくる。

各国首脳の本音とは

2007年以降、ロンドンを拠点にイギリスとEUをウオッチし、『EU崩壊』(新潮新書、2013年11月)、『欧州 絶望の現場を歩く――広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ、2017年1月)と欧州本を2冊上梓した筆者だが、恥ずかしいことに知らない首脳の方が多くなった。目まぐるしく入れ替わるので、一体、誰が誰やら分からなくなる。

「さあショータイムだよ」と隣のTVクルーがつぶやいた。フランスのエマニュエル・マクロン大統領がやって来た。いつ見ても凱旋将軍ナポレオン1世のような威厳をたたえている。アメリカのドナルド・トランプ米大統領がエルサレムをイスラエルの首都と承認したことについてEU首脳会議で議論するという。

kimura20171215143202.jpg
メルケル独首相とハグするマクロン仏大統領(同、筆者撮影)

この男はアメリカに対して一歩も引くつもりはない。そこにドイツのアンゲラ・メルケル首相がやって来た。2人はハグして、頬に口づけをした。メルケルはマクロンがかわいくてたまらないというように相好を崩した。報道陣の質問に答えていたマクロンは「さあ、あなたの番ですよ」とメルケルにその場所を譲った。

年上殺しというか、女殺しというか、メルケルの扱い方は、ニコラ・サルコジ元仏大統領以上だ。それにしても連立交渉に手間取るメルケルの表情は予想以上に憔悴し切っていた。明日退陣してもおかしくないような感じだ。

最後の最後にやって来たのが、前日、支持母体・保守党内のソフト・ブレグジット派の造反にあってEU離脱法案の修正を強いられたイギリスのテリーザ・メイ首相。やはりEU首脳会議は居心地が悪く、1秒でも滞在時間を短くしたいのだろうか。しかし英・仏独3首脳の中で一番さっぱりした表情をしていたのが、意外にもメイだったのである。

解散・総選挙でよもやの過半数割れを喫してから保守党内のハード・ブレグジット派に鼻面を引き回され、閣外協力を得る北アイルランドの地域政党・民主統一党(DUP)に続いて、今度は保守党内ソフト・ブレグジット派の造反。もはや立つ瀬がないはずのメイなのだが、ブレグジット交渉の第1関門を突破して開き直ったのか。

3人の本音を聞くことはできないので、筆者が撮影した写真から勝手に想像を膨らませてみることにした。

kimura20171215143203.jpg
憔悴しきった表情を浮かべるメルケル独首相(同、筆者撮影)

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

全米の大学でイスラエルへの抗議活動拡大、学生数百人

ワールド

ハマス、拠点のカタール離れると思わず=トルコ大統領

ワールド

ベーカー・ヒューズ、第1四半期利益が予想上回る 海

ビジネス

海外勢の新興国証券投資、3月は327億ドルの買い越
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 2

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の「爆弾発言」が怖すぎる

  • 3

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴らす「おばけタンパク質」の正体とは?

  • 4

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 5

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 6

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 7

    「なんという爆発...」ウクライナの大規模ドローン攻…

  • 8

    イランのイスラエル攻撃でアラブ諸国がまさかのイス…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 8

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    ダイヤモンドバックスの試合中、自席の前を横切る子…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story