コラム

選挙に落ちたら、貿易会社の社長になれた話

2016年04月21日(木)11時45分

中国出身の私は昨年、日本に帰化して新宿区議選に出馬したが、その挑戦は民主主義のない国・中国の人たちにも大いに注目された。落選後、中国で知名度だけでなく信用度も高まり、複数の日中間ビジネスを手掛けることになった(写真提供:筆者)

 ニューズウィーク読者の皆さん、1年10カ月ぶりに李小牧が戻って参りました!

 初めましての方に自己紹介を。私は1960年生まれの"元"中国人。1988年に私費留学生として日本にやってきて、新宿・歌舞伎町で外国人向けの「案内人(ガイド)」として働きだした。当時は「日本で一番危険な街」だった歌舞伎町で、中国マフィアや日本のヤクザとの"事件"は1度や2度ではない。その体験をまとめた著書『歌舞伎町案内人』(角川書店、2002年)はベストセラーに、そして映画化までされた。

 そんな時、舞い込んだのがニューズウィーク日本版のコラム連載の仕事だった。「外国人の視点、歌舞伎町の視点で日本社会を見る」というお題に答えられるのか、正直不安だったが必死に取り組んだ。

 国際ニュース週刊誌で毎回、ヤクザの抗争や女の子の話ばかりを書く訳にはいかない。コラムのために、政治、経済、社会問題についてがむしゃらに勉強した。ゼロからの勉強だったのが逆によかったのだろう。政治も性事も(笑)、偏見や先入観なしに物事を見られるのが私の強みになった。

 連載中、記憶に残っているのが石原慎太郎都知事(当時)との舌戦だ。都の歌舞伎町浄化作戦が街を殺してしまうとコラムで批判したところ、石原知事は大激怒。1600人もの聴衆を集めた講演会で私を罵倒した。だが結果はどうだろう? 浄化作戦に負けず、妖しい魅力を残した歌舞伎町は今、かけがえのない観光資源として外国人観光客を集め、日本経済を支えているではないか。

「性界から政界へ」新たなチャレンジ

 足かけ10年続いたコラムで、日本社会への提言も中国政府への批判も自由に書き続けた私は、「政治家」としての心構えを持つようになっていた。「提言だけではない。本当の政治家になってやろう。日本のために日本を変えよう」、そう決意して動き出したのが2014年のこと。目標は2015年の新宿区議選だ。

【参考記事】「非政治的」だった私と日中関係を変えた10年

 喧騒渦巻く歌舞伎町の「性界」で27年間生きてきた男の、「政界」への挑戦だった。私は連載をやめて「政治家」の道を歩き出した。

 まずは日本国籍取得が必要だ。普通は申請から1~2年かかるというが、わずか7カ月で認可された。ありがたい話だが、国籍取得は2015年2月で、区議選投票日はわずか2カ月後に迫っていた。あとは必死の選挙活動だ。

 民主党の推薦が得られたとはいえ、すべては自力でやらなければならない。資金も自腹だ。選挙カーもない。ないない尽くしの選挙だったが、新宿を自転車で走り回って演説を続けた。色白で有名だった私が、日焼けして真っ黒になった。街頭演説でのどがガラガラになって、自慢の美声も失われた(笑)。

プロフィール

李小牧(り・こまき)

新宿案内人
1960年、中国湖南省長沙市生まれ。バレエダンサー、文芸紙記者、貿易会社員などを経て、88年に私費留学生として来日。東京モード学園に通うかたわら新宿・歌舞伎町に魅せられ、「歌舞伎町案内人」として活動を始める。2002年、その体験をつづった『歌舞伎町案内人』(角川書店)がベストセラーとなり、以後、日中両国で著作活動を行う。2007年、故郷の味・湖南料理を提供するレストラン《湖南菜館》を歌舞伎町にオープン。2014年6月に日本への帰化を申請し、翌2015年2月、日本国籍を取得。同年4月の新宿区議会議員選挙に初出馬し、落選した。『歌舞伎町案内人365日』(朝日新聞出版)、『歌舞伎町案内人の恋』(河出書房新社)、『微博の衝撃』(共著、CCCメディアハウス)など著書多数。政界挑戦の経緯は、『元・中国人、日本で政治家をめざす』(CCCメディアハウス)にまとめた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

MUFG、今期純利益1兆5000億円を計画 市場予

ビジネス

焦点:マスク氏のスペースX、納入業者に支払い遅延 

ビジネス

ペイペイのシステム障害、サイバー攻撃の有無含め調査

ワールド

ニューカレドニアの暴動で3人死亡、仏議会の選挙制度
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少子化の本当の理由【アニメで解説】

  • 2

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダブルの「大合唱」

  • 3

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史も「韻」を踏む

  • 4

    アメリカからの武器援助を勘定に入れていない?プー…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 7

    ロシア国営企業の「赤字が止まらない」...20%も買い…

  • 8

    英供与車両から巨大な黒煙...ロシアのドローンが「貴…

  • 9

    ユーロビジョン決勝、イスラエル歌手の登場に生中継…

  • 10

    「ゼレンスキー暗殺計画」はプーチンへの「贈り物」…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 6

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story