コラム

アマゾンとグーグルの相違点を「経営」から探って分かること

2017年12月15日(金)17時09分

さらに、グーグルの元CEOで現在は持ち株会社であるアルファベット社会長のエリック・シュミット氏が書いた『How Google Works(ハウ・グーグル・ワークス)』(日本経済新聞出版社)は、同社とアマゾンとの相違点を理解するうえでも注目の1冊である。

「事業は常に業務プロセスを上回るスピードで進化しなければならない。だからカオスこそが理想の状態だ。そしてカオスの中で必要な業務を成し遂げる唯一の手段は、人間関係だ。社員と知り合い、関係を深めるのに時間をかけよう」(同書)。人間関係をつくり部下を成長させるためにも、グーグルが1 on 1を重視している姿勢が表れている記述である。

同書には「イエスの文化を醸成する」という項目もあり、アマゾンの「Disagree and Commit」(「妥協せず議論し、決まったらコミットする」)とは違う企業文化が醸成されていることがわかる。

その一方で筆者が注目したのは、シュミットによるこの『ハウ・グーグル・ワークス』の中に、「ベゾスのピザ2枚のルール」という項目があることだ。グーグルでもアマゾンと同様に、実際の業務においては小さなチームで仕事をすることが生産的であると考えているのである。

「組織の構成単位は小さなチームであるべきだ。アマゾン創業者のジェフ・ベゾスはかつて『ピザ2枚のルール』を提唱していた。一つのチームは、ピザ2枚で足りるぐらいの規模にとどめなければならない、という意味だ。小さなチームは大きなチームより多くの仕事を成し遂げることができ、内輪の駆け引きに明け暮れたり、手柄が誰のものになるのか思い悩むことも少ない」(同書)

意思決定と権限委譲は経営の生命線

なお、「ベゾスのピザ2枚のルール」については、ベゾスが崇拝しているハーバード・ビジネススクールのクレイトン・クリステンセン教授が『イノベーションのDNA』(翔泳社)のなかでも、まさに「イノベーションのDNA」の事例として紹介されている。

「自身も非凡な実験者であるベゾスは、アマゾンで実験のプロセスを制度化し、社員が新しい製品やプロセスを追求して、あえて袋小路に入り込むことを奨励している。誰でも創造性を発揮できるという信念のもとに、チームを小さく保ち、社員に仕事を任せたという意識と責任感をもたせていく。ベゾスはアマゾンでピザ2枚のチームというルールをつくった。チームはピザ2枚でちょうどお腹がふくれるくらいの少人数(6人から10人)でなくてはならない」(同書)

社員全員に対して1人ひとりが自律的に自分自身にリーダーシップを発揮することを求めているアマゾン。1 on 1を重視し、部下が最大の成果を上げるための環境づくりができる人をマネジャーに求めているグーグル――。「リーダーシップ×マネジメント」のあり方や企業文化は異なるものの、小さなチームで成果を上げていくという点が一致していること、クリステンセン教授も「イノベーションのDNA」として評価していることは注目に値するだろう。

プロフィール

田中道昭

立教大学ビジネススクール(大学院ビジネスデザイン研究科)教授
シカゴ大学ビジネススクールMBA。専門はストラテジー&マーケティング、企業財務、リーダーシップ論、組織論等の経営学領域全般。企業・社会・政治等の戦略分析を行う戦略分析コンサルタントでもある。三菱東京UFJ銀行投資銀行部門調査役(海外の資源エネルギー・ファイナンス等担当)、シティバンク資産証券部トランザクター(バイスプレジデント)、バンクオブアメリカ証券会社ストラクチャードファイナンス部長(プリンシパル)、ABNアムロ証券会社オリジネーション本部長(マネージングディレクター)等を歴任。『GAFA×BATH 米中メガテックの競争戦略』『アマゾン銀行が誕生する日 2025年の次世代金融シナリオ』『アマゾンが描く2022年の世界』『2022年の次世代自動車産業』『ミッションの経営学』など著書多数。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米、原発燃料で「脱ロシア依存」 国内生産体制整備へ

ビジネス

米EV税控除、一部重要鉱物要件の導入2年延期

ワールド

S&P、トルコの格付け「B+」に引き上げ 政策の連

ビジネス

ドットチャート改善必要、市場との対話に不十分=シカ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 2

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS攻撃「直撃の瞬間」映像をウクライナ側が公開

  • 3

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を受け、炎上・爆発するロシア軍T-90M戦車...映像を公開

  • 4

    テイラー・スウィフトの大胆「肌見せ」ドレス写真...…

  • 5

    サプリ常用は要注意、健康的な睡眠を助ける「就寝前…

  • 6

    こ、この顔は...コートニー・カーダシアンの息子、元…

  • 7

    ロシア軍「Mi8ヘリコプター」にウクライナ軍HIMARSが…

  • 8

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 9

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 10

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 6

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 7

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 10

    メーガン妃の「限定いちごジャム」を贈られた「問題…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story