コラム

自転車シェアリング--放置か、法治か?

2017年04月27日(木)16時00分

深センの路上に放置されたシェアリング用自転車。会社ごとに色が違う Tomoo Marukawa

<こんど中国に行くときは自転車シェアリングを利用してみよう。街頭に置いてある自転車に乗って好きなところに行き、ただ乗り捨てればいい。年末には利用者が5000万人に達すると言われるほど、中国の自転車シェアリングが人気の理由>

2016年の秋ぐらいから中国では自転車シェアリングが主要な都市で急速に広まっている。私も噂には聞いていたが、今年3月に中国・深センに行ってその普及ぶりを初めて目の当たりにして驚いた。目算だが、自転車に乗っている人の6割ぐらいが自転車シェアリングを利用していた。私はその4~5か月前にも中国の他の都市には行っているのだが、自転車シェアリングが広まっている様子はなかった。都市によって普及の度合に違いがあるのかもしれないが、ここ半年ぐらいの間に急に広まったのである。

【参考記事】メイカーのメッカ、深セン

自転車シェアリング自体は決して新しいものではない。私が最初に目にしたのは2005年12月に南仏のリヨンに数週間滞在したときだった。日本でもNTTドコモの関連会社のドコモ・バイクシェアが2015年から東京の中心部などでサービスを始めている。現在は都心の6区(千代田区、文京区、新宿区、江東区、中央区、港区)で広域実証実験を行っており、この範囲であれば、例えば新宿区で借りて、文京区まで乗っていってそこで返却することが可能である。

成功のカギは「放置」

自転車シェアリングはいかにも先進国的な事業である。つまり、クルマが普及し尽くし、温室効果ガスの排出削減が課題となっているような国で、クルマから自転車への乗り換えを促進するという公共的な目的のために進められている。発展途上国で展開しようとしても、まず自転車の盗難をどう防ぐかが課題となり、うまく行きそうにない。ところが、先進国の所得水準に到達するにはまだしばらく時間がかかりそうな中国で、いま自転車シェアリングが大きく花開いているのである。

【参考記事】エリート主義から自転車を取り戻すために。「ジャスト・ライド」

成功のキーワードを一つ挙げるとすれば、それは「放置」である。深センでは文字通り50メートルおきぐらいにシェアリング用自転車が路上に放置されている。利用者はスマホであらかじめ名前や身分証番号を登録し、デポジットを支払っておく。あとは放置されたシェアリング用自転車を見つけ、その背中についているQRコードをスマホで読み取って解錠し、好きなところへ乗っていき、施錠してそこに放置すればいい。手近なところに自転車が見つからなければGPSを使ってスマホの地図上に表示することもできる。利用料金は30分で0.5~1元(8~16円)で、地下鉄やバスよりも安上がりだ。料金の支払いは、中国で多くの市民が利用しているWeChat Pay(微信支付)やAlipay(支付宝)を使う。

【参考記事】自転車の旅が台湾で政治的・社会的な意味を持つ理由

こんなやり方では、人々が自転車に乗りたい場所ではシェアリング用自転車が払底し、人々が自転車から降りたい場所に自転車が溜まっていくはずである。そこで、自転車シェアリングを運営する会社では、GPSで自転車がどのように動いたかを把握し、溜まっている自転車をトラックで回収し、人々の乗りたい場所に再配置している。

プロフィール

丸川知雄

1964年生まれ。1987年東京大学経済学部経済学科卒業。2001年までアジア経済研究所で研究員。この間、1991~93年には中国社会学院工業経済研究所客員研究員として中国に駐在。2001年東京大学社会科学研究所助教授、2007年から教授。『現代中国経済』『チャイニーズ・ドリーム: 大衆資本主義が世界を変える』『現代中国の産業』など著書多数

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

利上げの可能性、物価上昇継続なら「非常に高い」=日

ワールド

アングル:ホームレス化の危機にAIが救いの手、米自

ワールド

アングル:印総選挙、LGBTQ活動家は失望 同性婚

ワールド

北朝鮮、黄海でミサイル発射実験=KCNA
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ公式」とは?...順番に当てはめるだけで論理的な文章に

  • 3

    「韓国少子化のなぜ?」失業率2.7%、ジニ係数は0.32、経済状況が悪くないのに深刻さを増す背景

  • 4

    便利なキャッシュレス社会で、忘れられていること

  • 5

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 6

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離…

  • 7

    休日に全く食事を取らない(取れない)人が過去25年…

  • 8

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 9

    毎日どこで何してる? 首輪のカメラが記録した猫目…

  • 10

    中ロ「無限の協力関係」のウラで、中国の密かな侵略…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人機やミサイルとイスラエルの「アイアンドーム」が乱れ飛んだ中東の夜間映像

  • 4

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 7

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 8

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 9

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 10

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story