コラム

トランプおよびその他ポピュリストたちの罪を深くしているのは誰か

2017年01月21日(土)13時58分

トランプの大統領当選後、外国首脳として一番に会談した安倍首相(2016年11月) Handout/REUTERS

<ドナルド・トランプや安倍晋三などのポピュリストが歴史に禍根を残すことになるとしたら、それは彼らだけのせいではない>

 トランプについて、様々なことが語られるが、要は、テレビタレント出身のポピュリスト大統領であり、既存勢力でないアウトサイダーの政治家ということに尽きる。

 だから、トランプの政策の狙いやヴィジョンについて議論しても無駄である。それにもかかわらず、百家争鳴、皆で議論してしまっては、まさにトランプの思う壺である。彼は話題になることが狙いだから、それは泡沫大統領候補だったときから何も変わらない。炎上ビジネスであるから、放っておくのがもっとも正しい対処法である。

【参考記事】米メディアはなぜヒトラーを止められなかったか

 ただし、これは世界の潮流である。我が国の首相も、ヴィジョンや信念を持った政策はすくなくとも経済に関しては存在しない。しかし、それを「アベノミクス」というブランドとして確立し、これを使ったマーケティングに大成功したのである。だから、アベノミクスについて議論しても意味がない。

 都知事においても同じで、わたくしファーストであるから、劇場の主役に自分がなればよいので、盛り上がれば何でも良いのである。

【参考記事】トランプ支持者が抱える、ある深刻な分裂

リスクが高い経済政策

 この三者でいうと、アベノミクスというブランド戦略がもっとも持続的に機能しているのは、我が国のリーダーシップの特性によるものである。すなわち、トップは偉くないから、菅氏を軸に一部の官僚が戦術をデザインしていることにより、完全に支離滅裂で崩壊することはここまで回避されてきた。一方、トランプは、参謀がデザインして、トランプがアクターとしてそれに乗っかっているわけではなく、トランプの行動に合わせて、周りがなんとか辻褄をあわせようとしているだけなので、何か想定外のリスクが起きたときに対処はむしろ難しいむつかしいだろう。もちろん、米国の方が安全保障上の危機管理能力には優れた国家組織であるから、それなりに機能はするが、経済政策については、かなりリスクが高い。

 ただし、トランプは局地的には賢明であるから、収拾がつかなくなるような大風呂敷は広げず、局地戦で部分的に勝利を上げ続け、攻撃相手を次々と変えてきているので、破綻しにくい面もある。そうなってくると、大きな動きも期待できず、トランプラリーと称して盛り上がっている金融市場がもっとも崩壊に近いところにいるとも言えるだろう。

【参考記事】トランプはなぜ宗教保守派のペンスを選んだのか

プロフィール

小幡 績

1967年千葉県生まれ。
1992年東京大学経済学部首席卒業、大蔵省(現財務省)入省。1999大蔵省退職。2001年ハーバード大学で経済学博士(Ph.D.)を取得。帰国後、一橋経済研究所専任講師を経て、2003年より慶應大学大学院経営管理研究学科(慶應ビジネススクール)准教授。専門は行動ファイナンスとコーポレートガバナンス。新著に『アフターバブル: 近代資本主義は延命できるか』。他に『成長戦略のまやかし』『円高・デフレが日本経済を救う』など。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米国株式市場=続伸、マグニフィセント7などの決算に

ビジネス

NY外為市場=円、対ユーロで16年ぶり安値 対ドル

ビジネス

米テスラ、新型モデル発売前倒しへ 株価急伸 四半期

ワールド

原油先物、1ドル上昇 米ドル指数が1週間ぶり安値
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 2

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の「爆弾発言」が怖すぎる

  • 3

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴らす「おばけタンパク質」の正体とは?

  • 4

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 5

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 6

    「なんという爆発...」ウクライナの大規模ドローン攻…

  • 7

    イランのイスラエル攻撃でアラブ諸国がまさかのイス…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 10

    ロシア、NATOとの大規模紛争に備えてフィンランド国…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 6

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 7

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 8

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 9

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 10

    ダイヤモンドバックスの試合中、自席の前を横切る子…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story