コラム

新生活の門出にパックンが贈る「ビーカーの尿、バイアグラ、厚切りジェイソン」の教訓

2024年04月04日(木)20時05分

僕はコミュニケーションのきっかけとして使っているが、実はSee something. Say something.というのはアメリカでとても有名な表現だ。直訳すると「何かを見たら何か言ってください」で、元々は不審な人や物を見たら通報するよう呼び掛けるテロ対策の標語だった。今はそれがセクハラ、いじめ、人権侵害などの社会問題対策にも用いられている。何か気づいたら誰かに伝えよう。解決は認識から始まるから。

さらに、See something. Say something!は改善や発明のきっかけにもなり得る。また余談だが、シルデナフィルという化学物質はご存じでしょうか? 心臓病の治療薬として開発されたものだが、あまり効き目がなかった。だが臨床試験中に被験者の方が、ある副作用に気づいて医師に伝えた。おかげで、シルデナフィルは本来と全然違う用途の薬に生まれ変わった。はい、おなじみのバイアグラだ! まさに役に立ったね......See something. Say somethingが。

見たこと、気づいたこと(または考えたこと)、ぜひ発信してみましょう。

でも、謙虚な姿勢を忘れないでほしい。見たから全部把握している!考えたから絶対に正しい!と自信過剰にならないで。知らない可能性、違う可能性も認めて See something. Ask somethingしよう。

Ask somethingしないとこんな悲劇が

余談だらけのコラムになったが、僕はこの間、人の思い込みで大変な目にあった。浅草のクラフトビールバーに入った瞬間、酔っ払いの男性が僕に気づいた。「あ、テレビの人だ!」と、こっちを指差して騒ぎ出す。ちょっぴりうれしくなった僕も、あ、どうもと、会釈を返した。そこで男性の思い込みが発覚。「だよね!......おおい!厚切りジェイソンじゃん!!」

んんん。一番いやなパターンだ。質問して確認すればよかったのに、男性はAsk(質問する)の段取りを飛ばし、思い込みで動いていた。「お、ジェイソン君、写真撮ろうぜ!」と、しつこい男性を僕は、あの、違います。いや、違うから。すみません。失礼します!と、ちょっと冷たい感じで振り切り、バーから出た。

そうすると、背後から男性の声が聞こえてきた。「え?厚切りジェイソンって......感じ悪いね」

それを聞いた僕は心の中で......よっし!と、大満足だった(もちろんウソだ。ジェイソン君とは本当に仲いいし、心から応援している。......と書かないと、僕がマジで感じ悪いやつになっちゃうね)。

とにかく、思い込み対策としてもたくさん質問しよう。観察。発信。質問。そして最後は自ら動くこと、Do somethingだ。

プロフィール

パックン(パトリック・ハーラン)

1970年11月14日生まれ。コロラド州出身。ハーバード大学を卒業したあと来日。1997年、吉田眞とパックンマックンを結成。日米コンビならではのネタで人気を博し、その後、情報番組「ジャスト」、「英語でしゃべらナイト」(NHK)で一躍有名に。「世界番付」(日本テレビ)、「未来世紀ジパング」(テレビ東京)などにレギュラー出演。教育、情報番組などに出演中。2012年から東京工業大学非常勤講師に就任し「コミュニケーションと国際関係」を教えている。その講義をまとめた『ツカむ!話術』(角川新書)のほか、著書多数。近著に『パックン式 お金の育て方』(朝日新聞出版)。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米CPI、4月は前年比3.4%上昇に鈍化 利下げ期

ビジネス

米小売売上高4月は前月比横ばい、ガソリン高騰で他支

ワールド

スロバキア首相銃撃され「生命の危機」、犯人拘束 動

ビジネス

米金利、現行水準に「もう少し長く」維持する必要=ミ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 2

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史も「韻」を踏む

  • 3

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダブルの「大合唱」

  • 4

    それでもインドは中国に勝てない...国内企業の投資意…

  • 5

    マーク・ザッカーバーグ氏インタビュー「なぜAIを無…

  • 6

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 7

    奇跡の成長に取り残された、韓国「貧困高齢者」の苦悩

  • 8

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    中国のホテルで「麻酔」を打たれ、体を「ギプスで固…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 6

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 7

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 8

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    ウクライナ防空の切り札「機関銃ドローン」、米追加…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story