Picture Power

行き場なく宙に浮くカタルーニャ独立の夢

DECLARATION OF DREAMS

Photographs by TORU MORIMOTO

行き場なく宙に浮くカタルーニャ独立の夢

DECLARATION OF DREAMS

Photographs by TORU MORIMOTO

カタルーニャ自治州は独自の言語・文化を持つが、18世紀からスペイン統治下にある。カルラス・プッチダモン州首相が独立宣言をするとの観測が流れ、独立運動の旗を手に演説を待つ男性(17年10月10日)

13年前からスペイン北東部カタルーニャ自治州の州都バルセロナを拠点にする私にとっても、住民の独立への思いは想像以上のものだった。そもそも私は、住民投票の実施自体に懐疑的だった。これは一種の政治ゲームで、誰も本気で実現できるとは思っていないのではないか、と。

だが、カタルーニャは本気だった。市民は警察による封鎖に対抗しようと泊まり込みで投票所を占拠。10月1日の当日、人々は警棒で殴られても「投票するぞ!」と叫んで一歩も引かず、そうした現場の状況を承知の上で大勢が投票所に向かった。結果は投票者228万人で、賛成票が約9割。カタルーニャ州政府でさえ、これほどの結果は予想していなかったはずだ。

スペイン継承戦争でカタルーニャがスペイン軍の手に落ちたのは1714年のこと。以来300年間、カタルーニャ人はスペインと一線を画しながら、独自の文化を守り続けてきた。選挙への執念は長く眠っていた「支配されている」感覚が呼び起こされた結果だろう。近年の緊縮策や税負担と配分への不満、地域の声を軽視する中央政府への怒りで目覚めたものだ。

投票後もスペイン政府は対話を求めるカタルーニャに対し、投票は違法の一点張り。ついには自治権を剥奪し、対するカタルーニャも独立を宣言した。EU諸国は、自国への飛び火を恐れて問題に目をつむる。住民が命懸けで示した意思は、このまま黙殺されてしまうかもしれない。

法律を盾に暴力で民意を抑え込むのが民主主義なのか。法は人民ではなく、国を守るためにあるものなのか。カタルーニャの現実は今、世界に大いなる疑問を投げ掛けている。

Photographs by Toru Morimoto

撮影・文:森本徹

米ミズーリ大学院ジャーナリズム学校在学中にケニアの日刊紙で写真家としてのキャリアを開始する。卒業後に西アフリカ、2004年にはバルセロナへ拠点を移し、国と民族のアイデンティティーをテーマに、フリーランスとして欧米や日本の媒体で活躍中。2011年に写真集『JAPAN/日本』を出版 。Akashi Photos 共同創設者

[本誌2017年10月31日号、2015年11月24日号、2006年5月31日号掲載]



【お知らせ】

『TEN YEARS OF PICTURE POWER 写真の力』

PPbook.jpg本誌に連載中の写真で世界を伝える「Picture Power」が、お陰様で連載10年を迎え1冊の本になりました。厳選した傑作25作品と、10年間に掲載した全482本の記録です。

スタンリー・グリーン/ ゲイリー・ナイト/パオロ・ペレグリン/本城直季/マーカス・ブリースデール/カイ・ウィーデンホッファー/クリス・ホンドロス/新井 卓/ティム・ヘザーリントン/リチャード・モス/岡原功祐/ゲーリー・コロナド/アリクサンドラ・ファツィーナ/ジム・ゴールドバーグ/Q・サカマキ/東川哲也/シャノン・ジェンセン/マーティン・ローマー/ギヨーム・エルボ/ジェローム・ディレイ/アンドルー・テスタ/パオロ・ウッズ/レアケ・ポッセルト/ダイナ・リトブスキー/ガイ・マーチン

新聞、ラジオ、写真誌などでも取り上げていただき、好評発売中です。


MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離れ」外貨準備のうち、金が約4%を占める

  • 3

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負ける」と中国政府の公式見解に反する驚きの論考を英誌に寄稿

  • 4

    休日に全く食事を取らない(取れない)人が過去25年…

  • 5

    「韓国少子化のなぜ?」失業率2.7%、ジニ係数は0.32…

  • 6

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 7

    日本の護衛艦「かが」空母化は「本来の役割を変える…

  • 8

    中ロ「無限の協力関係」のウラで、中国の密かな侵略…

  • 9

    毎日どこで何してる? 首輪のカメラが記録した猫目…

  • 10

    便利なキャッシュレス社会で、忘れられていること

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人機やミサイルとイスラエルの「アイアンドーム」が乱れ飛んだ中東の夜間映像

  • 4

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 7

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 8

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 9

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 10

    大半がクリミアから撤退か...衛星写真が示す、ロシア…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中