コラム

小田急線火災の本当の問題は、燃えた車両の屋根より地上の避難体制

2017年09月14日(木)16時00分

乗客に線路を歩いて避難させるのは大変に危険 lechatnoir-iStock.

<小田急線火災では車両に火が燃え移ったことより、その後の避難体制をどう確立するかの方が大きな課題>

今週10日(日)に小田急線「参宮橋~南新宿」間で、新宿行き各駅停車(3000形3次車、8両編成)が、線路脇のボクシングジムで火災が起きているにも関わらず、火災現場に8分間も停車する事態が発生しました。その結果、7号車(新宿寄りから2両目)の屋根に火災が燃え移っています。

この火災ですが、現場の周辺住民による動画などが複数撮影され、なかには車両の屋根が赤い炎を上げている映像などもあることから、報道各社はこの動画を繰り返し放送しました。

こうした事態を受けて小田急電鉄は、喜多見車両基地に回送された車両を報道陣に公開しています。その際に小田急は、「車内には何の変化もなかった」ことを情報公開していたようですが、取材映像としてはやはり「黒焦げになった屋根」に注目が集まることになりました。

この事態が一歩間違えば大惨事になりかねなかったのは事実です。ですが、その「大惨事の可能性」というのは、屋根の炎が車体を破壊し、さらに車内に延焼して焼死者や、有毒ガスによる健康被害が発生するというような「惨事」ではありません。

【参考記事】割増運賃、半分座席......東京の満員電車対策はロンドンに学べ

まず日本の鉄道車両に関しては、2003年に韓国・テグ(大邱)市で起きた地下鉄火災事件を重く見た国交省により「鉄道に関する技術上の基準を定める省令等の解釈基準」が厳しく改正され、これが全国の鉄道車両に適用されています。原因となった事故は地下鉄のものですが、例えば車両の屋根の不燃性に関しては、地上を走る鉄道に関しても全く同じ基準のものが適用されます。

今回の事故車両は2003年製造ですが、仮に新基準に適合しない箇所があった場合には、定期点検などで適合するような改造が行われているはずです。基準では「屋根自体は金属製もしくは金属と同等以上の不燃性」が要求されています。また、「屋根上面は難燃性の絶縁材料で覆われていなくてはならない」とされています。

今回燃えたのは、金属製の屋根ではなく、それを覆っている絶縁材料です。どうして絶縁材料を塗らないといけないかというと、電車の場合は万が一架線が切れて屋根に当たったり、パンタグラフが破損したりした場合に、金属製(この車両の場合はステンレス)の屋根から車体に電流が流れると危険だからです。

この難燃性の絶縁材料が燃えたわけです。具体的にはウレタン樹脂を素材とした塗料です。難燃性を確保しているはずの塗料が燃えたわけですが、実はこの難燃性というのには色々な意味があります。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ECB、6月以降の数回利下げ予想は妥当=エストニア

ワールド

男が焼身自殺か、トランプ氏公判のNY裁判所前

ワールド

IMF委、共同声明出せず 中東・ウクライナ巡り見解

ワールド

イスラエルがイランに攻撃か、規模限定的 イランは報
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離れ」外貨準備のうち、金が約4%を占める

  • 3

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負ける」と中国政府の公式見解に反する驚きの論考を英誌に寄稿

  • 4

    休日に全く食事を取らない(取れない)人が過去25年…

  • 5

    「韓国少子化のなぜ?」失業率2.7%、ジニ係数は0.32…

  • 6

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 7

    日本の護衛艦「かが」空母化は「本来の役割を変える…

  • 8

    中ロ「無限の協力関係」のウラで、中国の密かな侵略…

  • 9

    毎日どこで何してる? 首輪のカメラが記録した猫目…

  • 10

    便利なキャッシュレス社会で、忘れられていること

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人機やミサイルとイスラエルの「アイアンドーム」が乱れ飛んだ中東の夜間映像

  • 4

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 7

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 8

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 9

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 10

    大半がクリミアから撤退か...衛星写真が示す、ロシア…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story