コラム

アメリカで沸き起こった「オプラ2020」待望論を考える

2018年01月11日(木)17時00分

ゴールデングローブ賞受賞式でのオプラの品格あるスピーチに多くの人が酔いしれた Paul Drinkwater/NBC/REUTERS

<ゴールデングローブ賞受賞式でのスピーチをきっかけに、一気に盛り上がったテレビ司会者オプラ・ウィンフリーの大統領選立候補への待望論。その背景にあるのは......>

今週8日、アメリカではSNSを通じて「オプラ2020」というスローガンが爆発的に拡散されました。テレビ司会者で女優のオプラ・ウィンフリーに、2020年の大統領選に立候補して、現職のトランプ大統領に挑戦してもらいたいという待望論です。

きっかけになったのは、前夜7日に行われた「ゴールデングローブ賞授賞式」でした。式の中で、オプラは生涯にわたる功績を認められて「セシル・B・デミル賞」を受賞したのですが、その際のスピーチが立派であったために、その場にいた芸能人を中心に「オプラのカリスマ性」が「大統領選への待望論」として爆発的に広まったのです。

メディアも加熱気味で、9日には公開の与野党協議を行っていたトランプ大統領に対して「『オプラ2020』についてどう思うか?」と記者が尋ね、大統領自身が「面白いと思うが、彼女は出ないだろう」とか「出てきたら俺が勝つ」などという発言を引き出すと、各社が一斉に報じていました。

政治的なキャリアが皆無である彼女に対して、どうしてここまでの待望論が沸騰したのかというと、まず今回のゴールデングローブ賞授賞式の特異性があると思います。

昨年の「ハービー・ワインスタイン問題」を発端として、アメリカのエンターテインメント業界では、「#MeToo」のハッシュタグに象徴される、セクシャル・ハラスメントを許さない運動が勢いを増しています。そんな中で、今回のゴールデングローブ賞授賞式では、この運動への連帯を示すために女性の出席者の多くが黒の衣装を着る動きがありました。

ところが、実際に授賞式が幕を開けると、女性だけでなく男性の参加者も全員が真っ黒の衣装で登場したのです。そのファッションが示すように、授賞式の全体が「アンチ・セクハラ」のトーンで、染め上げられることになりました。

司会を務めたコメディアンのセス・マイヤースも、もちろん黒のネクタイを決めていたばかりか、オープニングでも「Ladies and remaining gentlemen!」つまり「淑女のみなさん、そして(セクハラ告発を受けていない)クビのつながった紳士の皆さん」と呼びかけるというジョークまで飛ばしていたのです。

オプラのスピーチは、そんな異様な雰囲気の中で行われたのでした。オプラというと、ビジネスの世界で最も成功したアフリカ系女性と言われていますが、芸能界でのキャリアでは、テレビ司会者として「オプラ・ウィンフリー・ショー」という自分の名前を冠したトークショーを大成功させていることで有名です。

トークショーにおけるオプラは、喜怒哀楽を前面に出すスタイルが特徴でした。傷付いた人の心情に寄り添い、その人に強い共感を寄せていくことで、トークショーが人情劇になってゆく、それがオプラの魅力なのですが、その原点にあるのは、少女時代に性的虐待の被害に遭ったということを彼女自身がカミングアウトしている事実です。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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