コラム

アメリカの分裂が深刻でも分離独立は起こらない理由

2017年11月18日(土)15時00分

トランプ政権発足後、カリフォルニア州の分離独立を求める人々 Chelsea Guglielmino/GETTY IMAGES

<トランプ政権発足で亀裂は深まる一方だが、合衆国憲法の修正の難しさが飛び火を防ぐ壁に>

イラク北部クルド自治区やスペインのカタルーニャ自治州など、分離独立を問う住民投票が相次いでいる。分裂が深刻化しているアメリカにも飛び火する可能性はあるのか。そんな質問を受けることが増えた。

16年の大統領選でトランプがまさかの勝利を収めた当初は、分離独立など憲法上あり得ないと一笑に付していた。だがトランプ大統領が誕生する可能性があるかと14年に問われていたなら、やはり一蹴していただろう。アメリカでの分離独立に現実味はどの程度あるのだろうか。

手短に言えば、分離独立は不可能に近い。実現には合衆国憲法の修正が必要で、修正第1条から第10条までの「権利章典」が発効した1791年以降で修正が行われたのは17回のみだ。しかし最近の世論調査では、アメリカ人の25%が地元州の分離独立を支持。支持率は南西部で最も高いが、他の地域でも20%前後ある。

分離独立の機運が特に高まっているのはテキサス州とカリフォルニア州だが、理由はそれぞれ異なる。テキサス州の場合、住民の26%が分離独立を支持しているが、その背景にあるのは人種的不和だ。16年のテキサス共和党大会では分離独立の是非を問う住民投票の実施が僅差で否決されたが、分離独立を支持する声は民主党より共和党に多い。一説には同州の共和党員の過半数近くが分離独立を支持しているという。

テキサスは共和党が圧倒的に強い州だが、国レベルの政治家はこうした動きを完全に無視してきた。憲法修正は至難の業であり、分離独立を支持すれば合衆国を弱体化させ、不可能なことに時間を浪費していると猛批判を浴びるのは必至だからだ。

ただし共和国だったテキサスがアメリカとの併合を承認した1845年の併合決議によれば、テキサスが望めば最大で5州まで分割できるという内容が盛り込まれており、これをテコに議会での影響力を拡大させることはできる。

財政への不満も背景に?

テキサスに対し、カリフォルニアの場合は共和党の反知性主義的ポピュリズムに対する嫌悪感や同州の「優越性」に起因している。スキルや才能重視の傾向が進む社会で、グローバル化の恩恵を受けている人々と取り残された人々との格差が広がっている。修士号取得率が中間値を上回る18州は全て昨年の大統領選でクリントンに投票。人口増加率が最も高い大都市圏では民主党が支持を拡大している。

プロフィール

サム・ポトリッキオ

Sam Potolicchio ジョージタウン大学教授(グローバル教育ディレクター)、ロシア国家経済・公共政策大統領アカデミー特別教授、プリンストン・レビュー誌が選ぶ「アメリカ最高の教授」の1人

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米国株式市場=下落、予想下回るGDPが圧迫

ビジネス

再送-〔ロイターネクスト〕米第1四半期GDPは上方

ワールド

中国の対ロ支援、西側諸国との関係閉ざす=NATO事

ビジネス

NY外為市場=ドル、対円以外で下落 第1四半期は低
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」──米国防総省

  • 3

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP非アイドル系の来日公演

  • 4

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 5

    未婚中高年男性の死亡率は、既婚男性の2.8倍も高い

  • 6

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 7

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    やっと本気を出した米英から追加支援でウクライナに…

  • 10

    「鳥山明ワールド」は永遠に...世界を魅了した漫画家…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこ…

  • 7

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 8

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 9

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story