最新記事

スマートフォン

フェースブックフォンなんてお断り

SNS最大手が携帯電話を売り出したら個人情報の流出に歯止めがかからない?

2012年1月24日(火)15時58分
ダニエル・ライオンズ(テクノロジー担当)

主戦場 フェースブックもいずれはモバイルが主流になる Suzanne Plunkett-Reuters

 なんでまた世界最大のSNSフェースブックが自社ブランドのスマートフォンを作るのか。

 米ウォール・ストリート・ジャーナル系列のIT情報サイト「オール・シングス・デジタル」によると、噂の「フェースブックフォン」のOSはグーグルのアンドロイドで、製造は台湾のHTCが担当する。

 コードネームは「バフィー」。TVドラマで吸血鬼と戦うヒロインの名だが、いったい誰と戦うつもりなのだろう。
しかし、なぜ機器作りなのか。フェースブックの登録ユーザーは8億人以上で、うち3億5000万人はモバイル機器で接続しているとか。ならば、あらゆるモバイル機器で使えるアプリを開発すればいいのでは?

 実は、フェースブック自身は開発の噂を認めていない。モバイル機器は自分たちにとって重要であり、「よりソーシャル化したデバイスほど好ましい」という声明しか出していない。

 フェースブックもいずれはモバイル主流の時代が来ると考えているのだろう。だがあいにく、モバイル分野の2大勢力アップルやグーグルとの仲はかなり険悪だ。

 グーグルが独自のSNS「グーグルプラス」をスタートさせたのは今年6月のこと。その発表の数カ月前に、フェースブックはPR会社を雇ってグーグルの中傷記事を書かせている。

 アップルは昨年、音楽SNS「ピング」を搭載したiTunes10を発表した。当初はフェースブックと手を組むはずだったが、フェースブック側が「とんでもない条件」(故スティーブ・ジョブズの表現)を付けてきたため、交渉は決裂した。

 今年8月に発表した最新モバイルOS「iOS5」には、フェースブックのライバルであるツイッターのソフトを組み入れた。著名ブロガーのロバート・スコーブルによれば、なぜフェースブックにしなかったのかとアップル側に問うと、「(CEOの)マーク・ザッカーバーグが究極のクソ野郎だから」という答えが返ってきたそうだ。

企業としての評判は最悪

 フェースブックフォンが世に出るまでには1〜1年半かかるとされる。そんなに時間がかかるなら、途中で消える可能性も十分にある。

「この噂は間違っている」と考える人もいる。例えば、シリコンバレーの有力ベンチャーキャピタルを率いるロジャー・マクナミーは、開発中なのはモバイル機器でフェースブックを使いやすくするソフトだろうとみる。機器メーカーにこれを提供し、フェースブックのブランド力を利用すれば他社と差別化できますよ、とささやく作戦だ。

 現にフェースブックとHTCはこの夏、フェースブック専用ボタン付きのスマートフォンを発売したが、失敗に終わった。なぜか。同社のSNSの人気は高いが、企業としては嫌われているからだ(最近の調査でも「アメリカで最も嫌われている企業」の上位にランクした)。

 フェースブックについては「迷惑メールや迷惑画像による攻撃に弱い」とか、「新機能のせいで、いま何を読んでいるかを赤の他人に知られてしまう」といった好ましくないニュースばかり。情報の共有を円滑にするとされているが、薄気味悪いので脱退する人もいる。

 フェースブックは個人情報を企業と勝手に「共有」して稼いでいる。そう考える人たちなら、フェースブックフォンなど願い下げだろう。それでもフェースブックは自社のスマートフォンを普及させるため、価格を安くする、あるいは無料で配布するかもしれない。そうすれば若い客は釣れるだろう。

 でも私なら、追加料金を払えばしっかりプライバシーを守ってくれる電話がいい。広告もなく、私の居場所を追跡したりせず、私の情報を誰かに「共有」させない電話。ポケットにフェースブックなんて、お断りだ。

[2011年12月 7日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

「金利のある世界」、財政健全化進める=財政審建議で

ワールド

ロシアの制裁逃れ対策強化を、米財務長官が欧州の銀行

ビジネス

中国の若年失業率、4月は14.7%に低下

ワールド

タイ新財務相、中銀との緊張緩和のチャンス 元財務相
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:スマホ・アプリ健康術
特集:スマホ・アプリ健康術
2024年5月28日号(5/21発売)

健康長寿のカギはスマホとスマートウォッチにあり。アプリで食事・運動・体調を管理する方法

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    娘が「バイクで連れ去られる」動画を見て、父親は気を失った...家族が語ったハマスによる「拉致」被害

  • 3

    「隣のあの子」が「未来の王妃」へ...キャサリン妃の「ロイヤル大変貌」が話題に

  • 4

    米誌映画担当、今年一番気に入った映画のシーンは『…

  • 5

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 6

    9年前と今で何も変わらない...ゼンデイヤの「卒アル…

  • 7

    ベトナム「植民地解放」70年を鮮やかな民族衣装で祝…

  • 8

    中国の文化人・エリート層が「自由と文化」を求め日…

  • 9

    服着てる? ブルックス・ネイダーの「ほぼ丸見え」ネ…

  • 10

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 5

    娘が「バイクで連れ去られる」動画を見て、父親は気…

  • 6

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 7

    「隣のあの子」が「未来の王妃」へ...キャサリン妃の…

  • 8

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 9

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 10

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中