最新記事

資源

世界へ広がる中国の鉱物資源買収 オーストラリア・カナダ両国が「待った」

2020年7月12日(日)12時57分

鉱物資源が豊富なオーストラリアとカナダが、自国企業への中国国有鉱業会社による買収攻勢を警戒し、案件審査を厳しくしている。写真は内モンゴルの鉱山。2011年7月撮影。提供写真(2020年 ロイター)

鉱物資源が豊富なオーストラリアとカナダが、自国企業への中国国有鉱業会社による買収攻勢を警戒し、案件審査を厳しくしている。銀行関係者やアナリストによると、こうした規制強化が中国の買収熱に水を差し、産金業界の統合をもくろむ中国政府の役割にブレーキをかけるかもしれないという。

今年になって中国の山東黄金集団や紫金鉱業集団は、カナダ北極圏から南米、西アフリカに及ぶ相次ぐ事業買収を先導してきた。

カナダ政府とオーストラリア政府は最近、こうした中国政府系企業の投資への規制を強めている。新型コロナウイルス危機による経済混乱に乗じる形で国の戦略資産が買われやすくなっていると懸念しているためだ。

政府の指針改定で特定の国名は挙げられていない。しかしアルバータ大学中国研究所のゴードン・ホールデン所長は「懸念のほとんどは中国に対するものだ」と話す。

オーストラリアの産金会社アルタ・メタルズの買収を目指していた中国のゴールドシー・グループは6月、豪外国投資審査委員会(FIRB)がこの案件の審査にもっと時間をかける姿勢を示したため、計画を撤回した。

FIRBは6月、外国投資法の改定を発表。「機微な安全保障に関わる事業」に対する外国人投資家からの買収の意向については、案件の規模にかかわらず全てを精査するとした。4月にはリチウムやコバルトなど重要な鉱物資源部門への中国企業からの投資2件を阻止した。いずれも、再生可能エネルギーや電気自動車(EV)バッテリーなどのハイテク分野や防衛装備に用いられる鉱物資源だ。

オーストラリア財務省の報道官は「我が国の外国投資の枠組みは開放的で透明性があり、受け入れに前向きだ」と述べた。

ハードル

中国の天斉リチウムはオーストラリアの世界最大のリチウム鉱山で持つ51%の権益の一部を売却しようとしている。銀行関係者は、FIRBがこれを阻止する可能性があることを懸念する。

BDOの天然資源グローバルヘッド、シェリフ・アンドローズ氏は鉱物資源セクター全般について「(買い手の中国企業は)引き続き意欲を示しており、FIRBの強まる妨害に立ち向かう気でいる」と指摘。ただし、外資に対する規制がさらに強まればオーストラリアの国内勢に買収のチャンスが高まるとの見方を示した。

一方、カナダも経済面、安全保障面でのリスクが高まっているとみており、国家が保有する企業による投資はいかなるものでも厳格な審査に直面すると表明している。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米・イランが間接協議、域内情勢のエスカレーション回

ワールド

ベトナム共産党、国家主席にラム公安相指名 国会議長

ワールド

サウジ皇太子と米大統領補佐官、二国間協定やガザ問題

ワールド

ジョージア「スパイ法案」、大統領が拒否権発動
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    「隣のあの子」が「未来の王妃」へ...キャサリン妃の「ロイヤル大変貌」が話題に

  • 3

    「裸に安全ピンだけ」の衝撃...マイリー・サイラスの過激衣装にネット騒然

  • 4

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 5

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 6

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 7

    「すごく恥ずかしい...」オリヴィア・ロドリゴ、ライ…

  • 8

    時速160キロで走行...制御失ったテスラが宙を舞い、4…

  • 9

    日本とはどこが違う? 韓国ドラマのオリジナルサウン…

  • 10

    中国の文化人・エリート層が「自由と文化」を求め日…

  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 3

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 6

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 9

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中