最新記事

金融政策

円債金利、マイナス政策導入以来の高水準 日銀金融正常化の思惑消えず

2022年1月31日(月)18時30分
日の丸と1万円札

円債金利が、日銀がマイナス金利政策導入を決めた2016年1月以来の高水準に上昇した。2017年6月撮影(2022年 ロイター/Thomas White)

円債金利が、日銀がマイナス金利政策導入を決めた2016年1月以来の高水準に上昇した。日本の消費者物価指数の伸び率は依然2%に届いていないものの、世界的にインフレが進み、各国中銀が利上げに動く中で、日銀もいずれ金融正常化に向かうのではないかとの思惑が市場でくすぶっている。

「完全否定」でも消えなかった思惑

日銀の金融正常化に関心が高まった1月17─18日の金融政策決定会合。黒田東彦総裁は会見で、物価目標の2%まで遠い状況下で「利上げとか現在の緩和的な金融政策を変更するというようなことは全く考えていない」と言い切った。その後公表された同会合の「主な意見」でも、各政策委員からの早期の正常化提案はみられなかった。

マーケットの思惑はいったん完全否定された形だが、円債金利は再び上昇を始め、31日には、新発10年国債利回り(長期金利)が一時0.185%と、日銀がマイナス金利政策の導入を決めた16年1月29日以来の高水準を付けた。同じように日銀の金融正常化を巡る思惑が強まった昨年春の「点検」時を上回る水準だ。

円金利上昇の背景には、海外金利の上昇がある。株安進行にも関わらず、今後の金融政策がタカ派的になる可能性を否定しなかったパウエルFRB(米連邦準備理事会)議長の会見(26日)を受けて足元のフェデラル・ファンド(FF)金利先物市場は年内に約5回の利上げが実施されるとの見方を織り込んだ。

ただ、米金利上昇は一服しつつある。前週末28日の米10年債利回りは4bp低下の1.80%。31日のアジア時間に入っても1.78%台と低下している。米金利に連動しやすい円債金利としては珍しい「逆行現象」の要因には、日銀の金融正常化への警戒感があるという。

SMBC日興証券のチーフ金利ストラテジスト、森田長太郎氏は、先週後半から円債が米国債に対し再びアンダーパフォームし始めたと指摘。「需給要因もあるかもしれないが、市場は日銀が最終的にはグローバルな環境変化に抗しきれないとみている面もあるようだ」との見方を示す。

消えないマイナス金利導入時の「記憶」

「黒田総裁が強く否定すれば否定するほど、市場は疑心暗鬼になってしまう」と、三菱UFJモルガン・スタンレー証券のシニア・マーケットエコノミスト、六車治美氏は指摘する。日銀の「完全否定」にもかかわらず、市場で思惑がくすぶり続けるのは、マイナス金利導入時の「記憶」があるためだという。

16年1月21日の参院決算委員会で、黒田総裁は「現時点ではマイナス金利政策を具体的には考えているということはない」と発言。しかし、日銀はその8日後にマイナス金利導入を決定した。その後の黒田総裁の国会答弁にあるように、経済や物価の情勢は毎回の決定会合で検討するものであり、「変節」とは言えないが、市場にはサプライズの印象が残ってしまった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ノババックス、サノフィとコロナワクチンのライセンス

ビジネス

中国高級EVのジーカー、米上場初日は約35%急騰

ワールド

トランプ氏、ヘイリー氏を副大統領候補に検討との報道

ビジネス

米石油・ガス掘削リグ稼働数、3週連続減少=ベーカー
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岸田のホンネ
特集:岸田のホンネ
2024年5月14日号(5/ 8発売)

金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口......岸田首相がニューズウィーク単独取材で語った「次の日本」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 3

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 4

    「終わりよければ全てよし」...日本の「締めくくりの…

  • 5

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 6

    横から見れば裸...英歌手のメットガラ衣装に「カーテ…

  • 7

    ウクライナの水上攻撃ドローン「マグラV5」がロシア…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    ブラッドレー歩兵戦闘車、ロシアT80戦車を撃ち抜く「…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 3

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 4

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 5

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 6

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 7

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 8

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 9

    ウクライナ防空の切り札「機関銃ドローン」、米追加…

  • 10

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中