最新記事

SDGs

「産業革命以来の大変革」は間近──電力会社が挑戦する「水素社会」

THE PROMISE OF HYDROGEN

2023年3月24日(金)12時30分
パンドラ・デワン
水素社会

PETMAL/ISTOCK

<ナショナル・グリッド社などの普及に向けた実証試験が進み、脱炭素の切り札として期待されるグリーン水素>

世界は今まさに地球規模のエネルギー転換の時代を迎えようとしている。19世紀の産業革命以来の大変革が間近に迫っているのだ。

今も石油、天然ガス、石炭が世界の1次エネルギー消費の77%超を占めているが、世界的な潮流となった脱炭素の流れはもはや止められない。

太陽光や風力などの自然エネルギーは再生可能だが、気候に左右されるため供給が安定しない。そこが化石燃料に代わる代替エネルギーとしてネックになっているが、今ではこの問題を解決するエネルギー貯蔵技術が次々に生まれている。

その代表格が太陽光や風力などの再生可能エネルギーを使って製造される「グリーン水素」だ。

アメリカ各地では既に水素で走るトラックや乗用車、バスが試験的に導入されている。米エネルギー省(DOE)は今後10年をめどに水素を価格競争力のある新エネルギーに仕立てる計画で研究開発を後押ししている。水素が主流のエネルギーとして活用される「水素社会」の実現には何が必要なのか。

水素は宇宙に最も豊富にある元素だが、地球上では単体ではほとんど存在しない。酸素と結び付いて水(H2O)になるなど、通常は他の元素と結合している。結合を解いて水素を抽出するにはエネルギーが必要で、再び結合するときにこのエネルギーが放出される。

重量1キロ当たりの水素のエネルギーはガソリンの3倍。ただし、体積エネルギー密度は低いため、エネルギー源として利用するには圧縮するか液化して使うことになる。

「水素を燃料として利用すると、酸素と結合して水になり、二酸化炭素(CO2)は放出されない」と、英電力会社ナショナル・グリッドのモリー・ギルソン広報部長は説明する。「水素は炭素を含まないので、エネルギー源として利用しても一酸化炭素(CO)もCO2も出さず、水蒸気が出るだけだ」

社会の受容が普及の鍵

水素の中でも、いま最も注目されているのは、再生可能なエネルギーを使って水を電気分解して製造されたグリーン水素だ。太陽光や風力などの自然エネルギーでグリーン水素を製造して貯蔵しておけば、燃料としても使えるし、日照不足や風が弱いときに発電に利用できる。これがグリーン水素の大きなメリットだと、ギルソンは言う。

グリーン水素のほかにも、製造方法によって「グレー水素」、「ブルー水素」などと呼ばれる水素がある。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

台湾の頼次期総統、20日の就任式で中国との「現状維

ワールド

イスラエル軍、ガザ北部で攻勢強化 米大統領補佐官が

ワールド

アングル:トランプ氏陣営、本選敗北に備え「異議申し

ビジネス

日本製鉄副会長が来週訪米、USスチール買収で働きか
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバいのか!?

  • 3

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイジェリアの少年」...経験した偏見と苦難、そして現在の夢

  • 4

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 5

    時速160キロで走行...制御失ったテスラが宙を舞い、4…

  • 6

    チャールズ英国王、自身の「不気味」な肖像画を見た…

  • 7

    日本とはどこが違う? 韓国ドラマのオリジナルサウン…

  • 8

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 9

    英供与車両から巨大な黒煙...ロシアのドローンが「貴…

  • 10

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 9

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 10

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 4

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中