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「誰も労働者階級の声を代弁しない」ガザ出身でユダヤ・インド系アメリカ人の『二等市民』著者に聞いた

WHAT IS NEEDED

2024年5月1日(水)16時40分
メレディス・ウルフ・シザー(本誌記者)

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全米で労働者に取材したアンガーサーゴン RENATA BYSTRITSKY

──社会階層の上昇移動を妨げる最大の障壁は何か。

製造業を中国やメキシコに外注し、移民の受け入れを拡大したことだ。

アメリカは中流の生活を保障していた労働者階級向けの仕事を国外に「輸出」し、他国の中流階級を育てた。さらに低賃金で働く移民を大量に受け入れた。残っていた仕事は移民とアメリカ人で取り合いになり、賃金の低下を招いた。

企業は年金、質のいい医療保険、安定した労働時間と賃金を労働者から奪った。その結果が今の体たらくだ。

学歴による格差も深刻だ。アメリカ経済は知識産業で働く人々に高い報酬を払うが、労働階級の賃金は常に下方圧力にさらされている。

生活費の上昇もきつい。労働者階級の賃金は上がったが、中流の象徴であるマイホーム、十分な医療保険、教育費、老後に必要な資金は天文学的に高騰した。

エリザベス・ウォーレン上院議員が「ダブルインカムの罠」と呼んだ現象も一因だ。共働きで世帯年収が上位10~20%に入る上位中流層の夫婦は全てに倍の金額を払う余裕があり、これが物価を高騰させている。

──社会階層の上昇移動に学歴が密接に絡んでいるなら、大学の無償化が問題解決につながるのでは?

2つの点でノーだ。まず経済的な視点から見て、大卒者の需要は伸びていない。大卒向け産業の雇用は頭打ちどころか、AI(人工知能)の登場で縮小している。今や大卒の半数以上が学位の要らない仕事に就いている。アメリカは大卒を過剰生産した一方、熟練工の不足は深刻だ。

また誰もが進学を望むわけでも、そうしたキャリアを築きたいわけでもない。これはいいことだ。弁護士やジェンダー学専攻の大卒は余っているが、配管工や清掃員はいくらいても足りない。なのに国は前者の教育に金をつぎ込み、移民を大量に受け入れることで後者を軽んじた。

社会に不可欠な仕事を担う人たちが、家族を養えないのは不公平だ。

──『二等市民』を執筆する過程で、一番驚いたことは?

繁栄から取り残された人々の愛国心だ。彼らはこの国を見限っていないし、私たちも彼らを見捨てるべきではない。

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