最新記事

株の基礎知識

広がる「株主優待」廃止の動き、でも米国株より日本株が優位になる可能性も

2022年6月24日(金)10時20分
山下耕太郎 ※かぶまどより転載

■自社株買いを実施する企業が増えている理由

自社株買いは自己株式取得の一種で、過去に発行した株式を、企業が自己資金で直接株式市場から買い戻すことをいいます。その目的は、株主への利益還元やストックオプション(従業員持株会)などに充当するために行われます。

自己株式の取得と消却(株式を消滅させること)により、利益の絶対額は変わらなくても、1株あたりの資産価値や自己資本利益率(ROE)が向上します。それは株価にとってもプラスの材料になります。また、余裕資金を自社株買いにあてて、資本効率を改善する狙いもあります。

株主還元策として株主優待に代わって増えている自社株買いですが、アメリカの2022年初からの取得枠設定は4,000億ドル(約52兆円)と日本企業の約20倍です。日本においても、自社株買いによるさらに積極的な株主還元策が必要だといえるでしょう。

配当を充実させる企業も

自社株買いだけでなく、配当による株主への利益還元を充実させる企業も増えています。日経平均株価とプライム市場、スタンダード市場それぞれの現在の予想配当利回りは、次のようになっています。

kabumado20220624kabunushiyutai-2.png

プライム市場やスタンダード市場の予想配当利回りは2%を超えていますが、一般的に配当利回り3%以上を「高配当株」といいます。なかには日本郵船<9101>や商船三井<9104>など、予想配当利回りが10%を超えるような銘柄もあります。

配当利回りは、年間配当金の株価に対する比率を示す指標です。1株あたりの年間配当金を現在の株価で割って求めます。たとえば、現在の株価が2,000円で年間配当が60円の場合、配当利回りは3%(=60円÷2,000円)となります。

投資家の立場からすると、企業が配当を減らす(減配)リスクはありますが、株価上昇による値上がり益よりも配当のほうが確実性は高いため、配当利回りを重視する投資家もいます。

ただ、強固な財務基盤が安定した株主還元を可能にするので、負債が多すぎないか、潤沢なキャッシュがあるかなどをチェックする必要があります。

日本株の魅力が高まる?

今後、予想配当利回りの上昇や自社株買いの増加といった株主還元の強化によって、日本株の魅力が高まると考えられます。また、日経平均株価のPERは15倍前後が適正と考えられていますが、6月3日時点のPERは13.25倍で割安感も強まっています。

2021年までは、日本株に対してアメリカ株が優位な展開が続いていました。しかし、こうした株主還元策の強化と円安によって外国人投資家の日本株への関心が高まれば、今後はむしろ日本株のほうがアメリカ株に対して優位になるかもしれません。

[執筆者]
山下耕太郎(やました・こうたろう)
一橋大学経済学部卒業。証券会社でマーケットアナリスト・先物ディーラーを経て、個人投資家に転身。投資歴20年以上。現在は、日経225先物・オプションを中心に、現物株・FX・CFDなど幅広い商品で運用を行う。趣味は、ウィンドサーフィン。ツイッター@yanta2011 先物オプション奮闘日誌

※当記事は「かぶまど」の提供記事です

kabumado_newlogo200-2021.jpg




(参考記事)おいしい株主優待に隠された「思惑」を、企業の視点で考える
(参考記事)ソフトバンクGが自社株買いニュースで株価乱高下! その理由を考える

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

ノババックス、サノフィとコロナワクチンのライセンス

ビジネス

中国高級EVのジーカー、米上場初日は約35%急騰

ワールド

トランプ氏、ヘイリー氏を副大統領候補に検討との報道

ビジネス

米石油・ガス掘削リグ稼働数、3週連続減少=ベーカー
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岸田のホンネ
特集:岸田のホンネ
2024年5月14日号(5/ 8発売)

金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口......岸田首相がニューズウィーク単独取材で語った「次の日本」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 2

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 3

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 4

    横から見れば裸...英歌手のメットガラ衣装に「カーテ…

  • 5

    ブラッドレー歩兵戦闘車、ロシアT80戦車を撃ち抜く「…

  • 6

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 7

    アメリカでなぜか人気急上昇中のメーガン妃...「ネト…

  • 8

    「終わりよければ全てよし」...日本の「締めくくりの…

  • 9

    地下室の排水口の中に、無数の触手を蠢かせる「謎の…

  • 10

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 3

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 4

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 5

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 6

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 7

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 8

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 9

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 10

    ウクライナ防空の切り札「機関銃ドローン」、米追加…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中