zzzzz

最新記事

英語

イチローの英語が流暢なら、あの感動的なスピーチは生まれなかったかもしれない

2022年10月21日(金)17時04分
岡田光世

ニューヨークが教えてくれた "私だけ"の英語
"あなたの英語"だから、価値がある

 著者:岡田光世
 出版社:CCCメディアハウス
 (※画像をクリックするとアマゾンに飛びます)

彼の英語の発音は、英語母語者のそれとは違う。そこまで流暢というわけではない。彼が愛してやまないであろう「Seattle」などの発音はとてもきれいだけれど、「video」は「ビデオ」とカタカナ英語だし、ところどころに日本語なまりがある。

でも、発音の正確さなど、もはやどうでもいいと思えるほどの力が、このスピーチにはあった。いや、流暢ではないからこそ、一つひとつ丁寧に誠実に重ねていく言葉が、逆に聞く者の心に刺さった。

それは、野球における彼の姿勢と重なる。一つひとつ丁寧に誠実に課題に挑戦し、壁を乗り越えていく彼の生き方と。

日本語なまりがあるけれど、いや、それだからこそ、日本の言葉や文化を背負った、日本人の魂を感じる。イチロー氏の言葉には、訴える力があった。思いがあった。まさに「サムライ英語」だった。

英語が得意でない日本人や、英語を母語としない人たちには、単語がつながり、抑揚のある流暢なアメリカ人の英語より、イチロー氏の英語の方が聞き取りやすいかもしれない。

スピーチのなかでイチロー氏は、通訳の家族や子どもたちまで紹介した。彼が自分の思いや考えを英語でファンに正確に伝えることを、いかに大切にしていたかがうかがえる。

イチロー氏のスピーチは、ユーモアにあふれていた。アメリカでは、ユーモアが日常生活においてもスピーチにおいても、大切とされる。

「英語」という観点から見て印象的だったのが、英語のネイティブ・スピーカーではないからこそのユーモアがあったことだ。英語がわからない「弱み」をユーモアに変え、ユニークで感動的なエピソードに仕立て上げた。

それは、おしゃべりなチームメートのジェイミー・モイヤー氏についてだった。

“When I first met you, you kept talking to me in English for 30 minutes. And I had no idea what you said. Now my English is a little better, but I still can’t understand most of what you say.”
(初対面の時、君は英語で30分間も一方的に僕に話し続けたね。何を言っているか、さっぱりわからなかった。英語は少しうまくなったけれど、今も君の言っていることは、ほとんどわからないんだ。)

このあとでイチロー氏は、モイヤー氏が49歳までプレーし続けたことを本当に尊敬している、と話した。

最初の頃は「日本へ帰れと毎日のように言われた」と、イチロー氏はインタビューで話している。吐くほどの苦しい思いをして、ひとり練習を重ねてきた。

2001年に27歳でメジャーデビューしてから2019年に引退するまで、19シーズンのうち14シーズンをマリナーズでプレー。メジャー1年目にアメリカンリーグの新人王、盗塁王、首位打者、MVPなどとなる。さらに10年連続200安打など、数々の偉業を残した。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

訂正:鉱工業生産速報は4月は前月比0.1%低下、2

ワールド

金正恩氏、超大型多連装ロケット砲発射訓練を指導=朝

ワールド

OPECプラス、減産措置の一部を来年まで継続方向で

ビジネス

4月小売業販売額は前年比+2.4%=経産省(ロイタ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:イラン大統領墜落死の衝撃
特集:イラン大統領墜落死の衝撃
2024年6月 4日号(5/28発売)

強硬派・ライシ大統領の突然の死はイスラム神権政治と中東の戦争をこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    仕事量も給料も減らさない「週4勤務」移行、アメリカで増加中...導入企業が語った「効果と副作用」

  • 2

    都知事選の候補者は東京の2つの課題から逃げるな

  • 3

    ハイマースに次ぐウクライナ軍の強い味方、長射程でクラスター弾搭載可能なATACMS

  • 4

    F-16はまだか?スウェーデン製グリペン戦闘機の引き…

  • 5

    地球の水不足が深刻化...今世紀末までに世界人口の66…

  • 6

    国立大学「学費3倍」値上げ議論の根本的な間違い...…

  • 7

    自爆ドローンが、ロシア兵に「突撃」する瞬間映像を…

  • 8

    中国海軍「ドローン専用空母」が革命的すぎる...ゲー…

  • 9

    AI自体を製品にするな=サム・アルトマン氏からスタ…

  • 10

    EVと太陽電池に「過剰生産能力」はあるのか?

  • 1

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発」で吹き飛ばされる...ウクライナが動画を公開

  • 2

    自爆ドローンが、ロシア兵に「突撃」する瞬間映像をウクライナが公開...シャベルで応戦するも避けきれず

  • 3

    「なぜ彼と結婚したか分かるでしょ?」...メーガン妃がのろけた「結婚の決め手」とは

  • 4

    中国海軍「ドローン専用空母」が革命的すぎる...ゲー…

  • 5

    ハイマースに次ぐウクライナ軍の強い味方、長射程で…

  • 6

    戦うウクライナという盾がなくなれば第三次大戦は目…

  • 7

    黒海沿岸、ロシアの大規模製油所から「火柱と黒煙」.…

  • 8

    仕事量も給料も減らさない「週4勤務」移行、アメリカ…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    少子化が深刻化しているのは、もしかしてこれも理由?

  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 3

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 4

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 5

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 6

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 7

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発…

  • 8

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 9

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 10

    自爆ドローンが、ロシア兵に「突撃」する瞬間映像を…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中