最新記事
映画

「ミステリーを超えた法廷ドラマ」カンヌ・パルムドール作品の監督が語る創作魂

A Very French Interview

2024年2月16日(金)19時21分
ダン・コイス(スレート誌エディター)
ミステリーじゃない斬新な法廷ドラマ

トリエ監督は、山荘で男性が転落死し、小説家の妻が殺人容疑で裁判にかけられる本作を「謎解きゲーム」にしたくなかったという ©LESFILMSPELLEAS_LESFILMSDEPIERRE

<夫の死をきっかけに暴かれる家族の真の姿を描いた映画『落下の解剖学』(2月23日公開)のフランス人女性監督が独自の制作スタイルと創造の舞台裏を語る>

昨年のカンヌ国際映画祭で最高賞のパルムドールに輝いた『落下の解剖学』はフランスの女性監督ジュスティーヌ・トリエの作品。

ドイツ人の女優ザンドラ・ヒュラーが小説家サンドラに扮し、同業の夫サミュエルを殺害した罪でフランスで起訴され、フランス語と英語で自らの無実を主張する法廷ドラマだ。

公判では夫婦生活の亀裂が明らかになるが、それでサミュエルの死の「真実」が暴かれるわけではない。

なぜか。

この映画の主題は、他者の人生や人間関係、創作の魂は誰にも読めないという真理にあるからだ。

よくある謎解きミステリーに仕立てなかった理由や言語へのこだわりについて、スレート誌ダン・コイスがトリエ監督に話を聞いた。

──まず、この映画での言語について。サンドラはフランス語と英語を使い分けているが、彼女はフランス語が苦手で、英語は得意。夫のサミュエルも、彼女に合わせて言語を使い分ける。

複数言語の切り替えは、あなたの人生においてどのような役割を果たしているのか。そもそも、この映画でその問題を取り上げたのはなぜ?

第1に、私と言語との関係は変化し、すごく動いてきた。

若い頃は言語になじめないというか、なんだか臆病なところがあった。

言語が自分自身を助ける武器になるとか、デリケートな状況から抜け出す役に立つとか、そうやって言語という武器を使いこなすまでには時間が必要だった。

この映画に話を戻すと、言語がまさに中心的な問題になっている。

私たちは言語の異なる領域間を行き来しているのだと思う。

一つは家庭や親密な関係で交わされる直情的な言語で、そこでは話が通じなくてもなんとかなる。

一方、法廷では現実を把握するために分析的な言語が使われる。言語との関係がより知的でクールなものになる。

だからこの2つの言語の領域を掘り下げて、人が一方から他方へどのように移行するのかを解明したら面白いと思った。

──いわゆる「犯人捜し」の映画というジャンルがある。最初は謎めいていて、最後に真実が明かされるというようなものだ。でもこの作品は違う。最後で真犯人が分かる展開は考えなかった?

最初から今のような形でやるつもりだった。

巧妙な謎解きみたいな映画は、見る側としても好きじゃない。

この映画はそうじゃなく、映像の欠如、物事の欠如に基づいている。

物がないから、それだけ想像力が働く。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ウクライナ南部オデーサの教育施設にミサイル、4人死

ワールド

ウクライナに北朝鮮製ミサイル着弾、国連監視団が破片

ワールド

米国務長官とサウジ皇太子、地域の緊急緩和の必要性巡

ビジネス

地政学的緊張、ユーロ圏のインフレにリスクもたらす=
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われた、史上初の「ドッグファイト」動画を米軍が公開

  • 4

    メーガン妃の「限定いちごジャム」を贈られた「問題…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 8

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 9

    ナワリヌイ暗殺は「プーチンの命令ではなかった」米…

  • 10

    目の前の子の「お尻」に...! 真剣なバレエの練習中…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 7

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 8

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 9

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 7

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 8

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    「誰かが嘘をついている」――米メディアは大谷翔平の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中