最新記事

米大統領選

歴史を作るオバマ2期目のシナリオ

1期目で既に画期的な業績を挙げたオバマは、再選されればレーガン並みの伝説的な大統領になる

2012年11月7日(水)13時31分
アンドルー・サリバン(政治・メディアコラムニスト)

Yes, We can?  あと4年あれば、オバマはアメリカを劇的に変えられるかもしれない Larry Downing-Reuters

 来月に迫る米大統領選で、バラク・オバマは再選を果たせるか。先週のテレビ討論会では共和党の大統領候補ミット・ロムニー前マサチューセッツ州知事に軍配が上がったものの、失業率の改善という朗報にも恵まれた。終盤まで接戦が繰り広げられそうだ。

 だが筆者のみるところ、オバマが勝利し、民主党が上院で過半数を維持し、下院でもいくらか議席を回復する可能性はかなり高い。そして、そうなればアメリカの政治は大きく変わる。

 再選を果たせば、オバマは「民主党のレーガン」になれる。何しろオバマは1期目で景気後退を止め、テロと戦い、それなりに経済を再建し、国民皆保険制度を導入し、アルカイダを弱体化させ、同性愛者の権利を拡大し、そして見事に再び勝利した「時代の寵児」となるのだ。

 もちろん、共和党大統領だったロナルド・レーガンの再選を待ち受けていたような歓喜の渦は期待できない。100年に1度の大減税(所得税の最高税率をを70%から50%へ、最終的には28%へ)と国防費大増額の後光が差していたレーガンとは違う。だが、それでもオバマは民主党のレーガンになれる。

 ビル・クリントンも再選を果たしたが、オバマよりは条件に恵まれていた。オバマが就任初日から直面した危機は、クリントンよりもずっと深刻だった。だからこそ、うまく乗り越えたときの評価はずっと高くなる。

 しかも、即興性を身上としたクリントンとは異なり、オバマは最初から確かな戦略を持ち、遠い将来を見据えた政策を打ち出してきた。それは2期8年間の時間があってこそ成果が出るような長期戦略だ。うまくいけば、かつてレーガンが民主党を極左から中道に引き戻したように、極右の共和党を中道に引き戻せるかもしれない。

支持率の動きがそっくり

 もちろんオバマとレーガンの比較はばかげているし、冒涜的でさえある。84年のレーガンは49州を制して圧勝したが、アメリカ社会がここまで二分されている今、再現は望むべくもない。

 レーガンには、揺るぎない保守思想の持ち主だという神話があり、この男なら右派を鼓舞し左派を黙らせることができると信じられていた。だが現実の、とりわけ1期目のレーガンはだいぶ違っていた。

 彼は中道右派の現実主義者で、特に1期目は試行錯誤の連続だった。減税については何度も後退し、不本意ながら民主党保守派に頼っていた。レバノン介入では米兵200人以上の命を失った。再選の前には失業とインフレ率を合計した「経済不快指数」が11・5%に達していた(現在は9・8%) 。

 オバマが民主党左派から攻撃されているように、レーガンもまた共和党右派から攻撃を受けた。レーガンの共和党は中間選挙で下院の26議席を失い、彼自身の支持率も35%まで落ちた。1期目としてはオバマの最低支持率よりも低い。オバマ政権1期目の支持率の変動は、近年の大統領の誰よりも1期目のレーガンに似ている。ただしオバマの最低はレーガンより高く、最高はレーガンより低い。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

焦点:対中関税、貿易戦争につながらず 米中は冷めた

ワールド

中ロ首脳会談、包括的戦略パートナーシップ深化の共同

ビジネス

東芝、26年度営業利益率10%へ 最大4000人の

ビジネス

ホンダ、電動化とソフトに10兆円投資 30年までに
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 2

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史も「韻」を踏む

  • 3

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダブルの「大合唱」

  • 4

    羽田空港衝突事故で「日航の奇跡」を可能にした、奇…

  • 5

    マーク・ザッカーバーグ氏インタビュー「なぜAIを無…

  • 6

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 7

    それでもインドは中国に勝てない...国内企業の投資意…

  • 8

    総額100万円ほどの負担増...国民年金の納付「5年延長…

  • 9

    老化した脳、わずか半年の有酸素運動で若返る=「脳…

  • 10

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 7

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中