最新記事

領土問題

ベトナムvs中国、南シナ海バトルの行方

南シナ海を巡って激化する中国と周辺国の対立は、もはや地域問題に留まらなくなってきた

2011年6月15日(水)18時31分
キャスリーン・マクラフリン

わが領土 南沙諸島で建造中の桟橋の横を通るベトナムの船 Reuters

 ベトナムと中国による南シナ海の領有権争いが激化するなか、中国のライバル陣営の頭には単純なアイデアが浮かんだようだ。それは、この海の名前を変えるというものだ。

 ベトナムは、南シナ海という現在の呼び名を「東南アジア海」に変えようと各国や国際機関に働きかける署名運動を展開。呼び掛けは支持を広げている。フィリピンも別の案を考えている。「この海が南シナ海と呼ばれる限り、その名称が含まれる国(シナ=中国)のものだというメッセージが無意識に伝わるおそれがある」と、フィリピン軍広報官のミゲル・ホセ・ロドリゲス准将は言う。「我々フィリピン人はここを西フィリピン海と呼ぶべきだ」

 領有権に関しては、名前が重要な意味を持つと考える人が増えている。石油や天然ガス、鉱物資源が豊富にあると思われるスプラトリー諸島及びパラセル群島は、中国と南シナ海周辺諸国の間で起きている領有権争いの中心地。ここも中国では南沙諸島および西沙群島と呼ばれているし、ベトナムも独自の呼称を持つ。

 だが、この数週間中国と周辺国、さらに潜在的にはアメリカまで含んだ国々の間で高まっている緊張を考えれば、呼称は表面的な問題でしかない。ベトナムはこの海域での調査活動中に中国船から攻撃的な妨害活動を受けたとし、6月13日に9時間に及ぶ実弾演習を行った。中国はこれをベトナムによる領有権の侵害だと非難しつつ、妨害活動を行ったことは否定している。

 ベトナムでは、これまで見られなかったような市民による反中国抗議デモが盛り上がっている。また、フィリピンの政治家たちは中国による「弱いものいじめ」に対抗すべく、中国産製品の全国的な不買運動を呼びかけている。

「中国の善意と寛容さが伝わっていない」

 南シナ海では現在、6カ国が領海権や島々の領有権を主張している。なかでも中国はどの国より広範囲の領有権を主張し、今やその範囲の拡大さえ目論んでいるようだ。ベトナムやフィリピンとの最近の小競り合いは、地域的・世界的な問題において中国がますます攻撃的な姿勢を取るようになった表れだ、と専門家は指摘する。問題は状況をどう沈静化させるかと、どの段階でアメリカが関わってくる可能性があるかだ。

 中国側は、対立は周辺国のせいだと言いたいようだ。政府系英字紙チャイナ・デイリーの論調もそうだ。だが同時に中国は、武力攻撃への不安を抑えるため地域内での「人気取り作戦」も展開。矛盾したメッセージを発している。

「アジア諸国と善隣関係を築く姿勢を守る中国は、領海を巡る争いによって近隣諸国とトラブルを抱えることを望んでいない」と、チャイナ・デイリーは述べる。「残念なことに、中国の善意と寛容さは近頃うまく伝わっていないようだ。フィリピンとベトナムは、この問題で再び中国を挑発する道を選んだ」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

台湾の頼次期総統、20日の就任式で中国との「現状維

ワールド

イスラエル軍、ガザ北部で攻勢強化 米大統領補佐官が

ワールド

アングル:トランプ氏陣営、本選敗北に備え「異議申し

ビジネス

日本製鉄副会長が来週訪米、USスチール買収で働きか
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバいのか!?

  • 3

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイジェリアの少年」...経験した偏見と苦難、そして現在の夢

  • 4

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 5

    時速160キロで走行...制御失ったテスラが宙を舞い、4…

  • 6

    チャールズ英国王、自身の「不気味」な肖像画を見た…

  • 7

    日本とはどこが違う? 韓国ドラマのオリジナルサウン…

  • 8

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 9

    英供与車両から巨大な黒煙...ロシアのドローンが「貴…

  • 10

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 9

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 10

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 4

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中