最新記事

反対派

オーストラリア人の94%が反捕鯨の理由

捕鯨問題はオーストラリア国民が党派の枠を超えて結束できる数少ないテーマだ

2014年4月17日(木)16時43分
デボラ・ホジソン(シドニー)

聖なる動物 オーストラリア人にとって鯨は国家のシンボルに Tim Wimborne/REUTERS

 オーストラリア大陸の南、タスマニア島のホバート港に環境保護団体シーシェパードの船が入港すると、スティーブン・ハーウィン(39)と10歳の双子の息子たち、7歳の娘はいつも港に駆け付ける。自家製のケーキと、家庭菜園で採れた野菜を差し入れして、日本の捕鯨船と戦っているシーシェパードへの感謝の気持ちを表すためだ。

 国際司法裁判所(ICJ)が先週、日本の南極海における調査捕鯨の即時停止を求める判決を下すと、ハーウィン一家は大喜びした。「重要な先例になる判決だ。この海域でクジラを捕ってはならないということが認められた」と、タスマニア大学の博士課程に在籍するハーウィンは言う。「捕鯨業者がクジラを養殖して捕るのは勝手だが、私たちの海では捕鯨をしないでほしい」

 ごく普通の礼儀正しいオーストラリア人がここまできっぱり反捕鯨を主張することに、多くの日本人は驚くかもしれないが、捕鯨問題ほどオーストラリア国民が熱烈に結束できるテーマはない。10年1月に1000人を対象に行われた世論調査では、94%が捕鯨反対と答えた。

 反捕鯨は、党派の枠を超えた政策になっている。環境保護派の「緑の党」に始まり、左派の労働党、保守派の自由党と国民党に至るまであらゆる政党が捕鯨中止を訴えてきた。

 1788年にイギリス人の入植が始まって以来、1979年に禁漁を定めるまで、オーストラリアは鯨油目当てにクジラの捕獲を大々的に行っていた。その結果、東海岸ではザトウクジラが絶滅寸前まで追い込まれた時期もあった。

「神聖な生物」と言うが

 しかし、オーストラリアは捕鯨に対する方針を転換し、クジラの「最大の敵」から「最大の味方」に変身した。今では、シドニー湾でザトウクジラの群れを見たり、巨大なサンゴ礁のグレートバリアリーフでミンククジラと一緒に泳いだりすることもできるようになった。

 オーストラリアは、お世辞にも野生動物保護の優等生とは呼べない国だ(17世紀以降の世界の哺乳類絶滅の3分の1は、オーストラリアで起きた)。クジラは、そんなオーストラリアが自然を保護していることを示す実例になるとも期待されている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

焦点:ロシア新国防相は「ソビエト的」、プーチン氏盟

ビジネス

インタビュー:日銀は6月に国債買い入れ減額か、利上

ビジネス

4月工作機械受注は前年比11.6%減、16カ月連続

ビジネス

楽天Gの1─3月期、純損失423億円 携帯事業の赤
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 2

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少子化の本当の理由【アニメで解説】

  • 3

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 4

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 5

    年金だけに頼ると貧困ライン未満の生活に...進む少子…

  • 6

    「ゼレンスキー暗殺計画」はプーチンへの「贈り物」…

  • 7

    アメリカからの武器援助を勘定に入れていない?プー…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    「人の臓器を揚げて食らう」人肉食受刑者らによる最…

  • 10

    ブラッドレー歩兵戦闘車、ロシアT80戦車を撃ち抜く「…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 4

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 7

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 8

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 9

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 10

    ウクライナ防空の切り札「機関銃ドローン」、米追加…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中