最新記事

国際情勢

イラクとシリアはウクライナとガザより深刻だ

ウクライナとガザの情勢がメディアの関心を集める影で、忘れられた2つの内戦が悪化の一途をたどっている

2014年7月24日(木)18時39分
ジョシュア・キーティング

悲劇が日常に バグダッドのシーア派住民地区では、ISISによる自動車爆弾テロや自爆テロが相次いでいる Ahmed Malik-Reuters

 このところ世界はガザとウクライナに目を奪われ、シリアとイラクの内戦のことは忘れてしまったようだ。メディアの報道では"目新しさ"が優先されるらしい。シリア内戦は延々と続いているが、メディアが取り上げるのは、化学兵器使用の疑いが出たり、アメリカが空爆を行う可能性があるなど、劇的な変化が起きたときだけだ。

 シリアでもイラクでも最近はガザやウクライナのような派手な変化は起きていない。だがシリアでは先週、アサド政権側とスンニ派の過激派組織ISIS(イラク・シリア・イスラム国、別名ISIL)の戦闘で700人以上の死者が出た。2日間の戦闘による犠牲者としては、シリア内戦における過去最悪の記録だ。

 イラクの首都バグダッドでも今週、ISISの自爆テロで31人の死者が出た。その多くは民間人だ。ISISは武力で占拠したイラク各地で政治的支配を進めている模様で、彼らの支配地域には油田もあり、密売ルートで石油を売り、新たな資金源にしている。

 イラク政府が派閥対立に引き裂かれ、機能不全に陥っているかぎり、ISISの台頭は押さえられそうもないが、シーア派、スンニ派、クルド人指導者の間での権力分配をめぐる話し合いはいっこうにまとまらない。そうしたなか、イラクの治安部隊がシリアのアサド政権が使用したことで悪名高い樽爆弾(樽状の容器に金属片などを詰めて殺傷力を高めた爆弾)を空爆に使い、民間人の犠牲者を出した疑いが浮上し問題になっている。

 ガザ、イラク、ウクライナ、さらには南シナ海と、「弧状に連なるグローバルな不安定要因」がオバマ政権を試練に立たせているという議論を最近よく耳にするが、こうした言説には大きな問題がある。長年火種がくすぶってきた地域における一時的な戦闘激化と、それよりもはるかに大規模で、国際情勢を大きく変容させかねない出来事を同列に扱っているからだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ブルックフィールド、再生可能エネでマイクロソフトと

ビジネス

焦点:揺れる米国市場、運用会社は欧州・新興国への資

ワールド

パナマ運河の水位低下、エルニーニョと水管理が原因=

ビジネス

ビットコイン5万8000ドル割れ、FOMC控え 4
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 4

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 5

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 6

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 7

    ポーランド政府の呼び出しをロシア大使が無視、ミサ…

  • 8

    なぜ女性の「ボディヘア」はいまだタブーなのか?...…

  • 9

    衆院3補選の結果が示す日本のデモクラシーの危機

  • 10

    米中逆転は遠のいた?──2021年にアメリカの76%に達し…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 8

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 9

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 7

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 8

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中