最新記事

健康

眠りの質向上が骨粗鬆症の予防に?

不眠症や時差ぼけに効くとされるメラトニンの意外な効能に着目した新研究

2014年9月1日(月)12時46分
サブリナ・バチャイ

一石二鳥 質のいい眠りはさまざまなメリットをもたらす Westend61/Getty Images

 メラトニンといえば、不眠症の解消に役立つとされ、サプリメントの売り上げは今も伸びる一方。さらに今後は、シニア層の間でも人気に火が付くかもしれない。先頃発表された研究で、骨粗鬆症の防止や治療にも効く可能性があると判明したのだ。

 カナダのマギル大学などが行った研究によれば、年老いたラットにメラトニンを与えたところ、骨の強度と柔軟性が向上したという。

 そもそもメラトニンは脳の松果体で作られるホルモンで、睡眠と覚醒のリズムをコントロールする。よく眠れない人や、時差ぼけなどで睡眠サイクルが乱れた人は、サプリメントでメラトニンを補充することで改善する可能性があるとされる。

 メラトニンの分泌量は夜は高く、日中は低くなるものだが、加齢によっても減少する傾向がある。年を取るにつれて睡眠時間が短くなり、睡眠の質が劣化しがちなのもそのせいだ。

眠りの質が落ちると破骨細胞が活発化

 これが実は、骨にも思いがけない影響を及ぼす。睡眠は骨の新陳代謝に深く関わっているからだ。骨は、古くなった骨を壊す破骨細胞と、骨を作る骨芽細胞の働きによって、日々少しずつ生まれ変わる。健康な大人の場合、2つの細胞がバランスよく働き、骨は強く保たれる。

 しかし「眠りの質が落ちると破骨細胞が活発になる」と、今回の研究チームを率いたマギル大学のフェイレ・タミミ教授は言う。その結果、新陳代謝のバランスが崩れ、骨粗鬆症を招く可能性がある。逆に考えれば、メラトニンを用いて睡眠のサイクルと質を向上させることで、破骨細胞の働きが抑えられ、骨粗鬆症の予防につながるのではないか──タミミらはそんな仮説を基に実験を行った。

 月齢22カ月のラット(人間のおよそ60歳に相当)20匹に、薄めたメラトニンを10週間投与。その後、何も与えなかったグループのラットと大腿骨を比べたところ、メラトニンを与えたグループのほうが骨量と骨密度が多かったという。

 人を対象にした研究も行われているが、まだ小規模なものばかり。効果が立証されるとしても時間がかかりそうだ。当面は「不眠症の上に骨粗鬆症という人は試してもいいかもしれない」とタミミは言う。ただし期待し過ぎは禁物だ。

[2014年8月26日号掲載]

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

アングル:最高値のビットコイン、環境負荷論争も白熱

ビジネス

決算に厳しい目、FOMCは無風か=今週の米株式市場

ビジネス

中国工業部門企業利益、1─3月は4.3%増に鈍化 

ビジネス

米地銀リパブリック・ファーストが公的管理下に、同業
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ」「ゲーム」「へのへのもへじ」

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 6

    走行中なのに運転手を殴打、バスは建物に衝突...衝撃…

  • 7

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 8

    ロシア黒海艦隊「最古の艦艇」がウクライナ軍による…

  • 9

    ロシア軍「Mi8ヘリコプター」にウクライナ軍HIMARSが…

  • 10

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 6

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 7

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 8

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 3

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈する動画...「吹き飛ばされた」と遺族(ロシア報道)

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中