最新記事

日本外交

ジョージアと呼ばれたいグルジアの気まぐれ

2014年10月31日(金)12時43分
河東哲夫(元外交官・外交アナリスト)

振り回される日本外交

 日本の外交は難しい。本来は戦略に基づいてやるべきものだが、他国の名称を変えるのもままならない。外国から賓客をたくさん呼びたくても、こちらの時間と予算に制約される。首相や外相が外国へ行くのも国会審議に縛られて窮屈──というように、手続き上のもろもろのことが日本の「外交」や、日本が相手に与える印象を結構左右してしまう。日本は安倍首相の「地球儀を俯瞰する」戦略にのっとって、ロシアと中近東のはざまにある「戦略的要衝グルジア」に駒を進めようとしているのだろうが、またもや国名変更という「手続き」に振り回されてしまうかもしれない。

 外国は変わり身が早い。グルジアもNATO、EU、ロシアの間をふらふらしている気味がある。また「グルジア」にする、いや本来の「サカルトベロ」がいい、と言い出すかもしれない。

 いまグルジアに院政を敷いている実業家、イワニシビリ前首相はサーカシビリ前大統領の反ロ路線を批判して権力を握った人物だ。16年に行われる総選挙では、国名をグルジアに戻してプーチンが旗を振る「ユーラシア連合」に入ろうと主張する政党が出てこないとも限らない。

 面白い話を紹介しよう。08年8月、CNNはグルジアとロシアの軍事衝突を興奮交じりに伝えていた。「たった今、ロシア軍が『ジョージア』に侵入しました。兵火は......に迫っています」。するとCNN本社(ジョージア州アトランタ)の電話がけたたましく鳴った。地元ジョージア州の老婦人が息せき切って言う。「ロシア兵がジョージアに入ってきたって?! で、どこまで攻めてきているの?」

 国や人の名は、むやみに変えるものではない。ひょっとして、日本の民主主義(官僚主義)は、いい防波堤になっているのかもしれない。

[2014年11月 4日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

台湾の頼次期総統、20日の就任式で中国との「現状維

ワールド

イスラエル軍、ガザ北部で攻勢強化 米大統領補佐官が

ワールド

アングル:トランプ氏陣営、本選敗北に備え「異議申し

ビジネス

日本製鉄副会長が来週訪米、USスチール買収で働きか
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバいのか!?

  • 3

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイジェリアの少年」...経験した偏見と苦難、そして現在の夢

  • 4

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 5

    時速160キロで走行...制御失ったテスラが宙を舞い、4…

  • 6

    チャールズ英国王、自身の「不気味」な肖像画を見た…

  • 7

    日本とはどこが違う? 韓国ドラマのオリジナルサウン…

  • 8

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 9

    英供与車両から巨大な黒煙...ロシアのドローンが「貴…

  • 10

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 9

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 10

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 4

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中