最新記事

米大統領選

サンダースを熱狂的に支持する若者たちは、民主主義を信じていない

アメリカの若者は、政治からも民主主義からも締め出されたと感じている

2016年2月9日(火)18時32分
クリストファー・ビーム(ペンシルバニア州立大学マコートニー民主主義研究所専務理事)

目立つ若者 予備選間近のニューハンプシャー州で行われたサンダースの支援集会 Shannon Stapleton-REUTERS

 民主主義について考えると、若者のことが心配になる。

 民主主義は崩壊しつつある。ハーバード大学のロベルト・フォアとヤスチャ・モンクが先ごろ発表した研究によると、政治や選挙についてだけでなく、民主主義そのものに対する失望が広がっているのだという。

 これは世界的な傾向だが、アメリカの若い世代でとくに顕著だ。1980年以降に生まれたアメリカ人で、民主主義国家に暮らすことが大切と答えた人の割合は30%に満たない。1970年以降に生まれたアメリカ人では、民主主義を「悪い」あるいは「非常に悪い」とした人が5人に1人を超える。1950年から1970年の間に生まれた人と比較してほぼ2倍の割合だ。

 筆者は数十年にわたり、民主主義と民主主義政治を研究してきた。その間ほぼずっと、民主主義に対する失望が広がっていくのを見守ってきた。筆者のような人間は、バラク・オバマを大統領に選出した2008年に若者が大挙して投票所に足を運んだのを目にしてホッと胸をなでおろしたものだ。若い世代が政治制度に参加しているのを見るのは嬉しいことだった。

【参考記事】オバマが就任式に託したリベラルの夢

 ところが、2014年の中間選挙では若者の投票率は史上最低を記録した。2016年には、投票率は回復するだろうか。

 若者たちの民主主義に対する思い入れの低さを心配する私たちは、多くの若者が社会主義者を標榜し格差の解消を訴えるバーニー・サンダースを支持しているのを見ると勇気づけられる。ただし、懸念材料がないわけではない。

【参考記事】なぜ日本には「左派勢力の旗手」が出現しないのか?

 政治に関心を抱く若者全般、ならびにサンダースの選挙運動に率先して参加する若者たちを突き動かしているのは、現状に対する不満だ。そしてその不満には十分な根拠がある。

今の状況を招いた原因は何か

 2011年から2013年にかけて開かれたアメリカ合衆国第112議会で可決された法案の数は、1947年以降でもっとも少なかった。第113議会はそれに次ぐ2番目の少なさだ。

 現在開かれている第114議会では、可決法案数が持ち直しつつあるが、それもほんのわずか。まもなく成人する若者たちにとっては、民主主義はただの制度であり、政治家たちがひたすら答えの見つからない中傷合戦を繰り広げる場にすぎない。

 その状況を変える手段は選挙であるはずだ。しかし、アメリカ連邦議会に対する支持率は10%前後をさまよう一方、2014年の選挙では議員の20人中19人が再選を果たしている。議会に対しては大きな不満があるのに、選挙が変化へと結びついていないのだ。

 これには主な理由が2つある。そしてそのせいで、若者は政府を信頼することができない。

変化を阻む壁

 連邦議会議員の選挙にかかる費用は、25年前に比べてざっと2倍に膨らんだ。選挙費用の平均は、2012年には過去最高の約160万ドルに達した。通常賄える金額ではない。

 より重要なのが「ゲリマンダー」問題だ。ゲリマンダーとは、特定の政党が下院議席を確保できるよう、州議会が選挙区の区割りをすることである。2010年の選挙で各州の議会で共和党が躍進したため、今では共和党に有利な選挙区が多くなっている。

【参考記事】共和党こそ高齢者殺しの張本人

 それなのに政府は、無能なばかりか鈍感だ。

意図された「若者の政治離れ」

 理由はまだある。共和党は若者を投票所から締め出そうとしている。ニューヨーク大学法科大学院のブレナン・センターによると、2010年から2014年までの間に、少なくとも22の州で、投票をやりにくくするような法案が可決されたという。

 投票時間の短縮や、身分証明書の提示義務なども含まれ、それらは大学生などの若い世代を対象にしている。

 こうした法律はほぼ例外なく、民主党を支持する傾向が強い若者を締め出し、共和党多数の議会を維持する目的で作られたものだ。そうした妨害に反発して投票に行く若者も中にはいるだもしれないが、すでに政治から切り離された若者からすれば投票を放棄する口実が増えただけのことになる。

 若者たちは「政治など関心を払うに値せず、民主主義はただの見かけ倒しだ」と思っている。そう教えたのは他ならぬ我々だ。

これからどうなるのか

 今回の大統領選挙を見る限り、今の若者は民主主義の失われた世代にならずにすむのかもしれない。

 若者には民主主義に対する嫌悪感が植えつけられている。だが、矛盾するようだがその嫌悪感が、ドナルド・トランプやとりわけバーニー・サンダースに若者の熱狂的支持者が集まっている理由なのではないだろうか。サンダースは民主党の指名争いのなか、45歳以下の有権者層で2対1以上の差をつけてヒラリー・クリントン前国務長官をリードしている。

【参考記事】支持者は歓迎、トランプ「イスラム入国禁止」提案

 政府の無能ぶりを目にした若者たちは、現状を根本から変えてくれそうなアウトサイダーに期待している。アウトサイダー候補が支持を集めているのはひとつには、若者ならではの民主主義に対する根深い不信に訴えかける術を身につけているからだ。

 もっと多くの候補者が若者を巻き込む努力をしてくれれば何よりだ。候補者たちが若者の不満に真っ向から取り組んでくれれば言うことはない。若者は、失望させたことを認める政治家の言葉を聞きたがっている。民主主義への信頼をどのように取り戻していくつもりなのか、候補者の口から聞きたがっている。

 とはいえ、誰かが若い世代の政治意識を覚醒させてくれるのをただ待っているわけにはいかない。若い世代が有権者としての役割を果たし、政治参加の方法を学べるよう、支援していかなければならない。まずは私たちが自分の責任を果たしてこそ、若者たちに「責任を果たしているか」と問うことができるだろう。

Christopher Beem, Managing Director of the McCourtney Institute of Democracy, Pennsylvania State University

This article was originally published on The Conversation. Read the original article.

The Conversation

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ジョージア「スパイ法案」、大統領が拒否権発動

ビジネス

必要なら利上げも、インフレは今年改善なく=ボウマン

ワールド

台湾の頼次期総統、20日の就任式で中国との「現状維

ワールド

イスラエル軍、ガザ北部で攻勢強化 米大統領補佐官が
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバいのか!?

  • 3

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイジェリアの少年」...経験した偏見と苦難、そして現在の夢

  • 4

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 5

    時速160キロで走行...制御失ったテスラが宙を舞い、4…

  • 6

    チャールズ英国王、自身の「不気味」な肖像画を見た…

  • 7

    日本とはどこが違う? 韓国ドラマのオリジナルサウン…

  • 8

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 9

    英供与車両から巨大な黒煙...ロシアのドローンが「貴…

  • 10

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 9

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 10

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中