最新記事

自動車

死亡事故のテスラは自動運転車ではなかった

2016年7月8日(金)17時00分
ランドル・オトゥール

Alexandria Saga-REUTERS

<事故で死亡したドライバーが乗っていたテスラ車は「運転支援」は搭載しているが当局規定の「自動運転車」ではない。例え運転支援機能があっても、ドライバーは注意を怠ってはならないし、この事故によって自動運転の開発が滞ることもあってはならない>(写真は事故にあったのと同型のテスラ車)

 今年5月にフロリダ州で発生した交通事故で、運転支援機能が搭載されたテスラのセダンのドライバーが死亡していたことについて、多くのメディアが「自動運転で初めての死亡事故」と報道した。ここで理解しておかなくてはならないのが、事故にあったテスラは自動運転車ではないことだ。アメリカ運輸省高速道路交通安全局(NHTSA)が「レベル4」や「レベル3」と区分している自動運転車、つまり「走行中に、安全上必要なすべての動作を自動で行う」ものでも、「特定の状況で、安全上必要なすべての動作を行う」ものでもない。

「手を離していい」故の勘違い

 このテスラに搭載されていたのは「高度運転支援システム(ADAS)」という機能で、走行中のハンドルや速度の調整は自動で行うが、ドライバーは安全確認を継続しなければならない。これはNHTSAの区分では、運転中の主要な動作を少なくとも2つ自動で行う「レベル2」に区分され、テスラの場合、前の車への衝突を回避する「クルーズ・コントロール」と車線の外に出ていかないようにする「レーン・センタリング」機能のことだ。

【参考記事】自動運転でも手を離せないテスラの大いなる矛盾


 BMWやメルセデス・ベンツなど他の自動車メーカーもこれらの運転支援機能を搭載した車を販売している。しかし他社は、ドライバーが数秒以上ハンドルから手を離すことを許していないが、テスラはそれを許している。このためテスラのドライバーは、自分の車が「特定の状況で安全上必要なすべての動作を自動で行う、レベル3」の自動運転車だと勘違いしてしまうのだろう。

【参考記事】グーグル「夢の無人自動車」が公道デビュー!


 次に重要なのは、フロリダ高速警備隊の当初の事故報告によると、事故の原因は優先権があったテスラに道を譲らなかったトラック運転手の過失にある点だ。高速道路上を左折しようとしたトラックは、対向車線のテスラに道を譲らなければならなかった。それでも、もしテスラのドライバーが前方を注意していれば、事故が起きていなかった可能性はある。

 テスラが搭載するレーダーシステムの製造メーカー「モービルアイ」は、レーダーは前の車に追突するのを防止する機能しかない、横から出てくる車との衝突を回避することはできない、と話している。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ナワリヌイ氏殺害、プーチン氏は命じず 米当局分析=

ビジネス

アングル:最高値のビットコイン、環境負荷論争も白熱

ビジネス

決算に厳しい目、FOMCは無風か=今週の米株式市場

ビジネス

中国工業部門企業利益、1─3月は4.3%増に鈍化 
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ」「ゲーム」「へのへのもへじ」

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 6

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 7

    目の前の子の「お尻」に...! 真剣なバレエの練習中…

  • 8

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 9

    ロシア軍「Mi8ヘリコプター」にウクライナ軍HIMARSが…

  • 10

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 6

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 7

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 8

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 3

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中