最新記事

シリア

【動画】流血の男児映像が映し出す地獄とヒーロー

2016年8月19日(金)17時07分
ジャック・ムーア

Aleppo Media Center

 救急車の椅子に座り、血まみれの顔でぼうぜんと前を見つめる5歳のシリアの子供の映像が、世界に衝撃を与えている。昨年9月にトルコの砂浜に漂着したシリア難民のアイラン・クルディ(3)の遺体写真に続き、罪のない子供を巻き添えにするシリア内戦の残酷さを象徴するものとして、インターネット上で拡散している。

【参考記事】難民の子供の水死、2カ月で90人

 映像には、全身が白く覆われ頭部が血だらけのオムラン・ダクニシュ(5)が映っている。

 ぼろぼろで見分けがつかなくなったアニメキャラクターのTシャツを着て、遠くの一点をただ見つめ、ショックで泣きもしない。額を触ってついた血を座面になすり付け、戸惑いを見せた。

 シリアのバシャル・アサド政権に抵抗するメディア団体アレッポ・メディアセンターが17日、インターネット上に映像を公開した。政府軍によるとみられる空爆を受けたとき、ダクニシュは両親と兄弟を含む家族6人はシリア北部アレッポの自宅にいた。ダクニシュは瓦礫のなかから約5時間後に救出され、救急車に乗せられた。

自国政府による無差別攻撃

 ぼうぜんと前を見つめるダクニシュの静止画像は、ソーシャルメディアで何千回もシェアされた。反政府活動家からは、ダクニシュは政権側がもたらした惨禍を世に問う代弁者だという声も上がった。

 シリアで内戦が勃発して6年。反政府勢力の拠点だったアレッポは、アサドのシリア軍とロシア軍の巻き返しで激戦地と化している。市民はアサド政権軍に包囲されて逃げることもできず、巻き添えで多数の死傷者が出ている。

【参考記事】シリア反体制派の拠点アレッポに迫る人道危機
【参考記事】1万7000人が殺され、今も殺され続けているシリアの刑務所はこんなところ

 ダクニシュを救出したのは、非武装中立の一般市民によるボランティア組織「ホワイト・ヘルメッツ」。シリアで空爆などによる負傷者を命がけで救出し、今年のノーベル平和賞候補にも挙がっている。治療にあたったのは米の非営利組織「シリア・アメリカ医療協会」の医師たちだった。

 ダクニシュはその後病院へ運ばれて治療を受け、2時間後に親戚の家へ引き取られた。両親も負傷し別の施設に運ばれたが、命は助かったという。

 シリアの内戦ではこれまでに30万人以上が命を落とし、戦火を逃れた何百万人が国内や周辺諸国で難民となっている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ブラジル経済活動指数、第1四半期は上昇 3月は低下

ビジネス

マイクロソフト、中国の従業員700人超に国外転勤を

ワールド

アルゼンチン、4カ月連続で財政黒字達成 経済相が見

ワールド

トランプ氏、AUKUSへの支持示唆 モリソン前豪首
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 2

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史も「韻」を踏む

  • 3

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダブルの「大合唱」

  • 4

    マーク・ザッカーバーグ氏インタビュー「なぜAIを無…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    それでもインドは中国に勝てない...国内企業の投資意…

  • 7

    羽田空港衝突事故で「日航の奇跡」を可能にした、奇…

  • 8

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 9

    総額100万円ほどの負担増...国民年金の納付「5年延長…

  • 10

    奇跡の成長に取り残された、韓国「貧困高齢者」の苦悩

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 4

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 7

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    ウクライナ防空の切り札「機関銃ドローン」、米追加…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中