最新記事

イラン

オバマ政権が期待したイランの穏健化は幻想だ

2016年9月29日(木)10時30分
ジュリオ・テルツィ(元イタリア外相)

Mike Segar-REUTERS

<イラン・ロウハニ大統領の本質は3万人の反体制派を大量処刑した革命初期の指導者と変わらない>(写真は、ニューヨークの国連総会で演説を行う直前のロウハニ)

 イランのロウハニ大統領は今月、ニューヨークで開かれた国連総会で演説した。2日前にはアメリカのオバマ大統領も演説を行っている。両首脳がこれほど接近するのはほぼ1年ぶりだ。

 今回のロウハニ訪米は、ある重要な疑問を提起している。オバマ政権と同盟国は、イランの核問題をめぐる交渉が合意に達する前からほとんど無視してきたイラン国内の人権侵害に、本気で取り組む意思があるのかどうかという疑問だ。

 イランと欧米など6カ国が、核問題に関する最終合意(包括的共同作業計画)の履行を宣言したのは今年1月。欧米の合意支持派は、これでイランの穏健化が進展する可能性があると主張した。

 それと同時に、イランが拘束していたアメリカ人5人を釈放したことも、支持派の主張を後押しするかに見えた。だが8月、オバマ政権がイラン側への計17億ドルの支払いに合意していた件が表面化。その一部は人質を解放させるための「身代金」だとして、多くの批判を浴びた。

【参考記事】オバマ政権がイランへ支払った17億ドルの意図とは何か

 さらにイランが核問題の合意を完全には守っていない疑惑も浮上した。合意に基づく制裁の解除は、対イラン関係の改善を強く期待したオバマ政権と同盟国の特別な譲歩だった。だが、その後もイランの外交的挑発は続いている。むしろ以前より激化している例も目に付く。

 8月には、イラン革命防衛隊の艦艇がペルシャ湾を航行中だった米軍の艦船に異常接近する事件が続発。米軍側が警告射撃する一幕もあった。イランの国営メディアは9月初め、米軍の艦船と航空機をイラン沖で破壊したとする革命防衛隊のプロパガンダを報道した。

法相は大量処刑の責任者

 エスカレートするイラン側の挑発は、国際社会に決断を迫っている。今こそ危険な行動を止めようとしないイランの「穏健派」と本気で対峙すべきだ。

 ロウハニ政権に対する国際社会の対応が後手に回っている問題はほかにもある。ロウハニ政権には「穏健派」のイメージがあるが、イラン国内の人権状況は一貫してその評判を裏切るものだった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

豪2位の年金基金、発電用石炭投資を縮小へ ネットゼ

ビジネス

再び円買い介入観測、2日早朝に推計3兆円超 今週計

ワールド

EUのグリーンウォッシュ調査、エールフランスやKL

ワールド

中南米の24年成長率予想は1.4%、外需低迷で緩や
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉起動

  • 4

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 5

    ポーランド政府の呼び出しをロシア大使が無視、ミサ…

  • 6

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 7

    米中逆転は遠のいた?──2021年にアメリカの76%に達し…

  • 8

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 9

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 10

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 8

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 9

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」…

  • 10

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中