最新記事

「国境なき医師団」を訪ねる

ヨーロッパの自己免疫疾患─ギリシャを歩いて感じたこと

2016年10月7日(金)17時00分
いとうせいこう

サプライの智子さん

 頭頂部が暑くなるのを避けてしばし木陰にいると、やがて智子さんが来た。白い長袖シャツにジーンズをはいていた。サングラスを外して明るく挨拶をする彼女は、あたりを見てこう言った。

 「今日は静かですね。近頃は週に2、3回は地下鉄も国鉄もストライキですし、デモもこのへんでしょっちゅうしているんですけど。日本大使館から色々おしらせが来るものの、多すぎてわけがわからなくなるほどで」

 しれっとした冗談も交えながら、実際にギリシャ情勢がどうであるかを伝えてくれるあたり、クレバーな人だなと思った。

 そのあと谷口さんとあれこれ世界中のMSF情報を素早くやりとりしているのを聞くと、智子さんは3月末に南スーダンから日本に帰り、途中地震の被害を受けた熊本のミッションに緊急参加したあとでギリシャに来たのだそうだった。

 「ついこの間、6月1日から消費税が24%になった上に、失業率が25%で、若年層だと50%なんですよ、ギリシャは」

 谷口さんと俺に、智子さんは短くそう言った。突然やって来た俺のような外国人には、その生活の厳しさがまるで見えていなかった。若者の半数に仕事がないというのは、先進国としては致命的な経済状態だった。

 それでも他国からの難民に手を差し伸べるMSFギリシャがあるということが、逆に俺には夢のような非現実的な事柄に思われた。

アクロポリスへ

 アテネのアクロポリス、2000年以上前に造られ、小高いその場所から地中海周辺の栄枯盛衰を見てきた建造物を、その日は見学することになっていた。というか、前日にそれを俺が希望した。

 週末だからこそ智子さんに長く話を聞けると知り、どうせだったらギリシャの根幹が感じられる土地を案内してもらいながらにしようと思ったのだった。もちろん受け入れる智子さん側もそう考えていたようだった。

 というわけで、俺たちは旧市街へと足を伸ばし、そこから遺跡群へと近づくことになった。昼どきのアテネ市街だったが、開いている店はまだまだ少なかった。

1007ito2.jpg

教会前から見上げる遺跡

 智子さんによると、MSFでの初めてのシティライフなのだそうだった。それまでの任務地では金銭を使う場所自体が珍しく、反対に現在は自炊にもかかわらず日当みたいなものを使い切ったと彼女は笑った。同じく世界各地での取材経験のある谷口さんも、その違和感に同意した。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

岸田首相、「グローバルサウスと連携」 外遊の成果強

ビジネス

アングル:閑古鳥鳴く香港の商店、観光客減と本土への

ビジネス

アングル:中国減速、高級大手は内製化 岐路に立つイ

ワールド

米、原発燃料で「脱ロシア依存」 国内生産体制整備へ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが...... 今も厳しい差別、雇用許可制20年目の韓国

  • 2

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 3

    翼が生えた「天使」のような形に、トゲだらけの体表...奇妙な姿の超希少カスザメを発見、100年ぶり研究再開

  • 4

    こ、この顔は...コートニー・カーダシアンの息子、元…

  • 5

    ウクライナがモスクワの空港で「放火」工作を実行す…

  • 6

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 7

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 8

    単独取材:岸田首相、本誌に語ったGDP「4位転落」日…

  • 9

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 10

    テイラー・スウィフトの大胆「肌見せ」ドレス写真...…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 5

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 6

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 7

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 8

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 9

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 10

    メーガン妃の「限定いちごジャム」を贈られた「問題…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 10

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中