最新記事

日米関係

「トランプ大統領誕生」で日本のメリットは何か?

2016年11月14日(月)17時20分
古谷経衡(文筆家)

今年6月、日米印の共同軍事演習で沖縄沖に出動した米空母「ジョン・C・ステニス」 NOBUHIRO KUBO-REUTERS

今度はトランプ幻想?

 トランプ氏当選から一夜明けた11月10日、日本ではいまだ恐慌・パニックともいうべき動乱が続いている。その恐怖に対する心の防御反応なのだろうか、にわかに日本側から「トランプが実際に政権を運営すれば、理性的な補佐官や共和党重鎮が指導し、実際にはこれまでの言動を反故にしたり軟化させたりする」というものが出てきた。私に言わせれば、これは体の良い「願望」である。

 もしヒラリーが大統領になっていれば、こういったことを開陳する人々は、ヒラリーの「日米同盟重視」という文句を「実際には反故にしたり硬化させたりする」などと論評していただろうか。いやしないだろう。トランプが大統領になったら日本に対して融和的な方針に転換する、というのは、「そうあってほしい」という願望の類であり意味はない。

 むしろあれだけ日本を敵視する発言を行ってきたトランプが、政権が発足するとがらりと180度転換して「日本重視」を鮮明にするなら、その言葉にこそ疑いをはさまなければらないだろう。自分の願望に都合の良い言動は額面通り受け取り、願望に沿わない意見は「実際は違う、本心では違う」などと想像をたくましくさせるのは、致命的な思考の欠陥と言わなければならない。

【参考記事】トランプ政権の対日外交に、日本はブレずに重厚に構えよ

 トランプは日本敵視というか、日本無関心の姿勢を貫いている。日米の戦後史についても無頓着をうかがわせる。ちくま文庫刊『トランプ自伝』には、当時バブル経済に沸く日本を「不当な貿易政策でアメリカから富を収奪して経済大国になった」という趣旨の記述がある。この本は80年代末に出版されたものだが、トランプの対日姿勢はこの時からほぼ変化がない。

 しかし株価や為替が大きな展開を見せ、すでに混乱状態にある日本にとって、なにもトランプ大統領誕生はデメリットばかりではないのだ。

トランプが与える日本人への精神的インパクト

 トランプ大統領が日本にとって与える大きなメリットの中で、最大のことは、日本人の精神性の変化である。トランプ大統領誕生からすでに二日目のきょう(11月10日)の段階で、「在日米軍がいなくなったらどうするか」「自衛隊を増強するよりほかないのではないか」「しまいには核武装という選択肢も考えないと」などという声が、巷間聞こえてくる。それまで割と政治的に無色で、特に外交安全保障について無頓着だった人が、「米軍が出ていくなら自衛隊の予算を増やして頑張ってもらうしかない」などと言ってはばからない。核武装の是非や、防衛予算をどの程度増強するのがよいのかには議論はあるが、これはすわトランプによって引き起こされた日本人の精神的激変だ。

【参考記事】世界経済に巨大トランプ・リスク

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ノババックス、サノフィとコロナワクチンのライセンス

ビジネス

中国高級EVのジーカー、米上場初日は約35%急騰

ワールド

トランプ氏、ヘイリー氏を副大統領候補に検討との報道

ビジネス

米石油・ガス掘削リグ稼働数、3週連続減少=ベーカー
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岸田のホンネ
特集:岸田のホンネ
2024年5月14日号(5/ 8発売)

金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口......岸田首相がニューズウィーク単独取材で語った「次の日本」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 3

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 4

    「終わりよければ全てよし」...日本の「締めくくりの…

  • 5

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 6

    横から見れば裸...英歌手のメットガラ衣装に「カーテ…

  • 7

    ウクライナの水上攻撃ドローン「マグラV5」がロシア…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    ブラッドレー歩兵戦闘車、ロシアT80戦車を撃ち抜く「…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 3

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 4

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 5

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 6

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 7

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 8

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 9

    ウクライナ防空の切り札「機関銃ドローン」、米追加…

  • 10

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中