最新記事

核開発

トランプがイラン核合意を反故にしたら中東では何が起こるか

2016年11月25日(金)16時44分
ヤサマン・ホルサンディ

トランプの言い分に怒ったイランの最高指導者ハメネイ師 Caren Firouz-REUTERS

<大統領選の選挙運動中、イランとの核合意を破棄または見直すと公言していたトランプ。合意体制の崩壊は、中東地域を不安定にするだけでなく、米イラン関係の長期的な悪化につながりかねない>

 多くのアメリカ人がドナルド・トランプ次期大統領の言動を不安と共に注視している。選挙運動中に掲げた公約を実行に移すのか、それとも幾つかの公約は撤回するのか――。その大きな懸念の1つが、イランとの核合意だ。

【参考記事】イラン核合意が日本の安全保障に与えるインパクト

 大統領選の選挙運動中、トランプはオバマ政権が成果として誇るイランとのこの核合意を「これまでの対外交渉の中で最低の合意」だと非難。合意を再交渉するかまたは破棄すると公言していた。これに応じてイランの最高指導者ハメネイ師は、合意どおりに経済制裁を解除しないなら「報復する」と語った。

 トランプ新政権の動向は、将来のアメリカとイランの二国間関係を長期的に揺るがす危険がある。

イランがアメリカを見限ったら

「広い意味で捉えれば、合意を遵守しないことによるリスクは、イラン政府がアメリカとの関係維持に興味を失うことにある」と、ニューヨークで弁護士として働くイラン系アメリカ人のティナ・フォスターは言う。「もしトランプ新政権が合意から180度方向転換すると、中東情勢や米イラン関係は非常に不安定になる」

 核合意はイランの他、アメリカを始めイギリス、フランス、ドイツなど6カ国が署名し、国連の安全保障理事会でも承認されている。仮にアメリカが単独で合意を破棄して経済制裁を科しても、その効果は強くない。また核合意が崩壊すれば、イランが核開発を再開してイスラエルやサウジアラビアが怒り出すなど中東地域が再び不安定となる可能性もある。

【参考記事】イランの弾道ミサイル実験は核合意違反にならない?──イスラエルは激怒
【参考記事】米、イスラエルに過去最大の武器供与提案──イラン核合意の償い?

 一方でトランプは湾岸諸国にとっての「新鮮な空気」、と好意的に受け止める反応もある。中東地域の協力機構「湾岸協力会議(GCC)」は、イランとの核合意を進めたオバマ政権は中東地域に混乱をもたらしただけだ、という見解を示した。しかも合意の見直しや撤回は、イランよりもアメリカにとってのダメージが大きいという。

「イランの経済力は大きいので、アメリカが失う利益は大きい。現時点ではヨーロッパもカナダもイランとの貿易にはオープンだが、アメリカだけが仲間はずれだ」と、イラン系アメリカ人の経営者は言う。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

銀行資本規制「バーゼル3」、米当局に8月最終決定の

ビジネス

米マスターカード、1─3月1株利益が市場予想超え 

ビジネス

日経平均は続落で寄り付く、米ハイテク株安や円高が重

ビジネス

テスラの「ギガキャスト」計画後退、事業環境の逆風反
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉起動

  • 4

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 5

    ポーランド政府の呼び出しをロシア大使が無視、ミサ…

  • 6

    米中逆転は遠のいた?──2021年にアメリカの76%に達し…

  • 7

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 8

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 9

    パレスチナ支持の学生運動を激化させた2つの要因

  • 10

    大卒でない人にはチャンスも与えられない...そんなア…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 8

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」…

  • 9

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 10

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中