最新記事

現場ルポ

「冷静に、理性的に」在日中国人のアパホテル抗議デモ

2017年2月6日(月)15時04分
高口康太(ジャーナリスト、翻訳家)

撮影:筆者(すべて)

<2月5日、在日中国人たちが東京・新宿でアパホテルに抗議するデモを行った。警官隊が取り囲み、保守系団体などが拡声器を使って周りから抗議の声を浴びせるなか、デモは静かに行われた>

2017年2月5日、東京都新宿区で在日中国人による抗議デモが行われた。元谷外志雄アパグループ代表が執筆した、南京大虐殺否定などの内容が含まれた書籍がアパホテルの客室に置かれていた問題について抗議することが目的だ。

1月15日に書籍について取り上げた動画が中国の動画サイトに投稿され、一気に拡散した。5日現在、動画の再生回数は1億3000万回を突破している。中国外交部報道官が言及するなど事態が拡大するなか、1月時点から一部の在日中国人の間でデモの実行に向けて準備が進められてきたという。この記事ではデモの現場で見た光景をお伝えしたい。

デモ開始時間の約30分前、私は小雨の降る新宿中央公園水の広場に到着した。すでに大勢の機動隊員が集まり、警備の準備を整えている。150人もの警官が動員されたと聞いている。一方でデモ参加者は広場の片隅にちらほらと小さく固まっている。主催者発表では300人が参加したというが、整列した数を数えたところ午後2時の時点では50人程度しかいなかった。

CCTV、新華社、東方衛視など多くの中国メディアが集まっていたほか日本メディアもいたため、デモ隊よりも取材陣のほうが多いような状況だった。デモ行進中、近くにいた歩行者が「なぜ警官がデモをしているの?」と驚いていたのが印象的だった。参加者が少なく、警官隊だけで移動しているように見えたのだろう。

参加者は20代の若者が大半だ。服装も髪型もオシャレな今時の若者という印象で、歩きにくそうなヒールの靴を履いた女性の姿もあった。話しかけてみるが、「主催者に聞いてくれ」という返事が返ってくるばかり。参加者のほぼ全員がマスクをする(身元がばれないようにとのこと)など非常に警戒している様子が伝わってきた。

前日に産経新聞がデモについて報じたため、ツイッターではカウンターデモの開催が呼びかけられていた。デモ参加者もその状況をよく知っており、不安が増したのだという。もともと200人以上が参加を表明していたと聞いたが、トラブルを恐れて参加を取り止めた人も多かったのではないか。また環球時報によると、前日にデモ中止の偽情報が流されたため、来なかった者もいるという。

takaguchi170206-2.jpg

デモ隊は出発前に隊列を組み、横断幕を手にしてメディア向けの撮影を行った。大きな横断幕には「JAPAN好きだ APAの元谷が嫌いだ」「STOP。APAホテルは企業倫理を守れ」「坚决抵制APA,维护民族尊严」(アパホテルを断固ボイコット、民族の尊厳を守れ)「珍惜和平 平和を大切に」「言論は自由とはいえ、良識は必要」とのスローガンが書かれている。また個々人でも「日中友好」などのプラカードを手にしている。熊本地震の際に広がった、怪我をしたくまモンを手当てするパンダのイラストを手にしている人もいた。

出発が近づくと、デモ隊はなにやらシュプレヒコールらしきものを中国語で叫び始めた。「らしきもの」というのは、実はシュプレヒコールではなかったからだ。「冷静」「冷静」と自分たちに言い聞かせる言葉を繰り返していた。

ともかく冷静にデモを行い、理性的な姿を示すのが今回のコンセプトだという。そのため大きな中国国旗は用意せず顔に中国国旗のシールを貼るだけにとどめた。また反日ではないと示すために、中国国旗以外に日の丸のシールを顔に貼っている人もいる。また移動中はシュプレヒコールをあげない沈黙のデモとすることも決めたという。出発前に「冷静」「日中友好」「戦争反対」などの声をあげていたが、移動中は終始沈黙を守っていた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

政府関係者が話した事実はない=為替介入実施報道で神

ワールド

香港民主派デモ曲、裁判所が政府の全面禁止申請認める

ビジネス

英アーム、通期売上高見通しが予想下回る 株価急落

ワールド

ガザ休戦案、イスラエルにこれ以上譲歩せずとハマス 
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岸田のホンネ
特集:岸田のホンネ
2024年5月14日号(5/ 8発売)

金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口......岸田首相がニューズウィーク単独取材で語った「次の日本」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    「自然は残酷だ...」動物園でクマがカモの親子を捕食...止めようと叫ぶ子どもたち

  • 3

    習近平が5年ぶり欧州訪問も「地政学的な緊張」は増すばかり

  • 4

    いま買うべきは日本株か、アメリカ株か? 4つの「グ…

  • 5

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 6

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 7

    迫り来る「巨大竜巻」から逃げる家族が奇跡的に救出…

  • 8

    イギリスの不法入国者「ルワンダ強制移送計画」に非…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    ケイティ・ペリーの「尻がまる見え」ドレスに批判殺…

  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 3

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 4

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 5

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 6

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 7

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 8

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 9

    サプリ常用は要注意、健康的な睡眠を助ける「就寝前…

  • 10

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 7

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 8

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 9

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 10

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中