最新記事

オーストラリア

オーストラリアの難民政策は「人道に対する罪」、ICCに告発

2017年2月24日(金)18時20分
レベッカ・ハミルトン(米アメリカン大学ロースクール准教授)

この政策は、オーストラリアの長い歴史の中で定着してきた人種差別とも合致している。「白豪主義」と呼ばれる政策によってオーストラリアは、ヨーロッパ系以外の移民の受け入れを体系的に排除してきた。この政策が公式に廃止されたのは1973年のことだ。

先週ICCに提出された証拠書類は、収容所の元職員の話として、オーストラリア政府がさらなる難民申請を思い止まらせるためにわざと劣悪な施設の環境を放置し、子どもにひどい仕打ちをしたと指摘している。罪を自覚していた政府は、収容所の惨状から世間の目をそらすため、あらゆる手段に出た。内部告発を刑事罰の対象にして、難民が司法審査を受けにくくする制限も設けた。

オーストラリアがパプアニューギニアのマヌス島とナウルに収容所を置いたのにも理由がある。どちらも長年オーストラリアが搾取してきた島だ。特にナウルは面積約20平方キロという世界最小国の1つで、国外の勢力に対する備えが脆弱だ。貴重な資源であるリン鉱石の輸出で栄えた時期もあったが、オーストラリアやイギリスなどが手当り次第に掘り尽くした結果、国土は丸裸にされ、不毛の地に変わり果てた。今や収容所の受け入れと引き換えにオーストラリアから受け取る金が、ナウルの最大の収入源だ。

【参考記事】希望のない最小の島国ナウルの全人口をオーストラリアに移住させる計画はなぜ頓挫したか

最後の刑事裁判所

子どもに対する暴力や性的虐待はもちろんのこと、収容施設では全体的な生活環境そのものが非人道的だ。ICC宛ての書類によるとマヌス島の施設では、収容者は熱帯の厳しい暑さで日陰すらない環境なのに、摂取できる飲料水の量が1日500ミリリットルに制限されていた。イラン出身の24歳の男性は皮膚に小さな発疹の症状が出た後、敗血症で死亡した。施設の不衛生な環境と、島内の診療所における不適切な処置が原因だった。

ナウルについても、就寝施設で1つのテントに最大50人もの収容者が押し込められるうえ、場所がちょうどリン鉱石の元採掘現場に当たるため、そこから発生する有害な塵の影響で特に子どもが慢性の呼吸器病を患っていると指摘した。

ICCは当事国の司法制度に訴追能力がないと認められる場合に限り、犯罪行為を裁ける。いわば最後の刑事裁判所だ。オーストラリアがICCで裁かれるのを避けたければ、一番手っ取り早いのは国内の法廷で訴追することだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

台湾の頼次期総統、20日の就任式で中国との「現状維

ワールド

イスラエル軍、ガザ北部で攻勢強化 米大統領補佐官が

ワールド

アングル:トランプ氏陣営、本選敗北に備え「異議申し

ビジネス

日本製鉄副会長が来週訪米、USスチール買収で働きか
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた異常」...「極めて重要な発見」とは?

  • 3

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバいのか!?

  • 4

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 5

    存在するはずのない系外惑星「ハルラ」をめぐる謎、…

  • 6

    チャールズ英国王、自身の「不気味」な肖像画を見た…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    時速160キロで走行...制御失ったテスラが宙を舞い、4…

  • 9

    「円安を憂う声」は早晩消えていく

  • 10

    英供与車両から巨大な黒煙...ロシアのドローンが「貴…

  • 1

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 2

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 9

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 10

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中