最新記事

自動車

新生「スバル」の前に立ちはだかる米国の壁

2017年4月25日(火)17時21分
宮本夏実(東洋経済記者)※東洋経済オンラインより転載

スポーティカジュアルが売りの新型「XV」。旧型よりオレンジ色の発色を鮮やかにした(撮影:尾形文繁)

「社名変更は今日から新たなステップを始めるという決意表明。モノをつくるだけでなく、そこに込めた価値を訴えるために、もう一段の高みを目指す」

4月1日、富士重工業は社名を変更し、ブランド名と統一した「SUBARU(スバル)」として新たなスタートを切った。吉永泰之社長は、強い決意を口にした。

toyokeizai170425-sub1.jpg

吉永泰之社長は社名変更に強い決意を込めた(撮影:尾形文繁)

新生「SUBARU」の第1号車が発売

それから5日後。新生スバルの第1号車となる、小型SUV(スポーツ多目的車)の新型「XV」が発売された。国内での販売計画は旧型の2倍となる月2200台と野心的な数字を掲げる。

新型XVは国土交通省所管の評価機関が実施する衝突安全性能試験で過去最高得点を獲得、安全運転支援システム「アイサイト」を標準装備とするなど安全性能を高めた。にもかかわらず、最低価格は税抜きで200万円を切る水準に設定した。

スバルの試算では、2016年の国内SUV販売は45.2万台と、10年の倍の規模に拡大。牽引役はXVのような小型車で、ホンダの「ヴェゼル」がその筆頭格だ。高まる街乗りのニーズを重視し、XVには今回、排気量2リットルのモデルに加え、1.6リットルの入門車を新たに用意した。

「1.6リットルエンジンを載せられないか」。新型XVの開発が中盤に差しかかった2016年春ごろ、スバルの開発陣にそう提案したのは、同社の営業部隊だった。

営業が試算した収益計画であれば、二つの排気量を開発するために人員を増やしても利益が出る。開発陣からは「1.6リットルで(スバルらしい)動力性能を発揮できるのか」との疑問も挙がったが、「街乗りで十分に性能を発揮できる車に仕上げられると判断し、開発に踏み切った」(XV開発責任者の井上正彦プロダクトゼネラルマネージャー)。

ここ10年間のスバルは、「技術者がやりたいことを探求し、いい車を造れば売れるというかつての姿勢」(井上PGM)から変わり、消費者目線を重視してきた。今回の社名変更に込めたように、現場でも、単なるモノづくりの会社からの脱却を進めている。

結果も伴ってきた。国内外で着実に販売を伸ばし、2016年度は初めて販売台数100万台の大台に乗る。

toyokeizai170425-sub2.jpg

とはいえ、年間1000万台を売るトヨタ自動車や独フォルクスワーゲンの10分の1の規模だ。スバルのようなメーカーは、独自の価値で生き残るしかない。

国内では「安心と愉しさ」をキャッチフレーズに、衝突安全性と「アイサイト」に代表される予防安全性を、米国では4輪駆動車やSUVという商品群でレジャーシーンとの相性のよさを武器にブランドを構築してきた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

台湾の頼次期総統、20日の就任式で中国との「現状維

ワールド

イスラエル軍、ガザ北部で攻勢強化 米大統領補佐官が

ワールド

アングル:トランプ氏陣営、本選敗北に備え「異議申し

ビジネス

日本製鉄副会長が来週訪米、USスチール買収で働きか
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバいのか!?

  • 3

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイジェリアの少年」...経験した偏見と苦難、そして現在の夢

  • 4

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 5

    時速160キロで走行...制御失ったテスラが宙を舞い、4…

  • 6

    チャールズ英国王、自身の「不気味」な肖像画を見た…

  • 7

    英供与車両から巨大な黒煙...ロシアのドローンが「貴…

  • 8

    日本とはどこが違う? 韓国ドラマのオリジナルサウン…

  • 9

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 10

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 1

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 2

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 3

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 9

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 10

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 4

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中