最新記事

映画

おとぎ話『美女と野獣』が多様性に目覚めたら

2017年4月28日(金)18時40分
トゥファエル・アフメド

CGを効果的に使ったリアルな野獣の姿や美しい映像にも息をのむ ©2017 DISNEY ENTERPRISES, INC. ALL RIGHTS RESERVED.

<おなじみのプリンセスが21世紀版に変身。斬新な設定と俳優陣が魅力的な話題作>

ケネス・ブラナー監督の美しい実写版『シンデレラ』、CGを見事に駆使したジョン・ファブロー監督の『ジャングル・ブック』......。2年前から、古典的名作を現代の子供向けによみがえらせてきたディズニーの最新の成果が『美女と野獣』だ。

ビル・コンドンが監督した本作は、91年の長編アニメ『美女と野獣』の実写版リメーク。主人公のベル(エマ・ワトソン)は、田舎町に住む芸術家モーリス(ケビン・クライン)の一人娘だ。外の世界を知りたいと思いながらも、妻を亡くした父親のために家にとどまり、読書や空想にふけっている。

父親が野獣(ダン・スティーブンス)の城に閉じ込められたと知ったベルは、助け出そうと城に向かい、身代わりとして死ぬまで野獣の下で暮らすと約束する。野獣はかつてハンサムな王子だったが、傲慢さのせいで魔女に呪いをかけられた。

王子を野獣に、召し使いたちを家具や食器に変えてしまった呪いが解けるのは、野獣姿の王子が誰かを真に愛し、相手にも愛されたときだけ。しかも魔法のバラの花びらが全て散る前にその誰かが現れなければ、呪いは永遠に解けなくなる。

本作の衝撃は、ディズニーの定番のプリンセスの1人を21世紀版にアップグレードしたことだ。ベルはもはや「捕らわれの乙女」ではない。恐怖に震えて助けを待つ代わりに、シーツでロープを作って窓から逃げ出そうとしたりもする。

ベルのフェミニスト的性格はあちこちに感じられる。父親には「強情」と言われるし、自分の知性に見合わない退屈な結婚で妥協しようとせず、町の人気者だが頭の鈍いガストン(ルーク・エバンス)の求婚を断る。

【参考記事】21世紀版『美女と野獣』で描かれる現代の女性像

控えめ過ぎるゲイの描写

本作を見る世界中の少女にとって、強く賢いヒロイン像は大きなエールになるだろう。とはいえ、もう1つの社会的少数派の描き方はいまいちだ。

『美女と野獣』は、ゲイ専門誌アティテュードによって、ゲイの主要キャラクターが登場する初のディズニー映画と称賛された。ガストンの子分、ル・フウ(ジョシュ・ギャッド)だ。

同性愛者らしき登場人物は、執事で置き時計のコグスワース(イアン・マッケラン)など、ほかにもいる。だが彼らの性的志向は、やんわりとほのめかされるだけ。保守派の顔色をうかがった感じがするし、子供は見ていても気付かないだろう。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

G20、米利下げ観測後退で債務巡る議論に緊急性=ブ

ビジネス

米EVリビアンが約1%人員削減発表、需要低迷受け今

ビジネス

USスチール買収計画の審査、通常通り実施へ=米NE

ビジネス

企業の資金需要DIはプラス4、経済の安定推移などで
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の衝撃...米女優の過激衣装に「冗談でもあり得ない」と怒りの声

  • 3

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離れ」外貨準備のうち、金が約4%を占める

  • 4

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 5

    中ロ「無限の協力関係」のウラで、中国の密かな侵略…

  • 6

    「イスラエルに300発撃って戦果はほぼゼロ」をイラン…

  • 7

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 8

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 9

    休日に全く食事を取らない(取れない)人が過去25年…

  • 10

    紅麴サプリ問題を「規制緩和」のせいにする大間違い.…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体は

  • 4

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 5

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 8

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 9

    帰宅した女性が目撃したのは、ヘビが「愛猫」の首を…

  • 10

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中