最新記事

サイエンス

ラットの頭部移植に成功 年末には人間で?

2017年4月28日(金)18時00分
ハンナ・オズボーン

Sky News-YouTube

<人間の頭部移植というSF映画のような話が急に現実味を帯びてきた。今年12月の手術に向けて着々と準備が進む>

世界で初めて人間の頭部移植手術を行うと宣言して物議を醸す神経外科医、セルジオ・カナベーロとその研究チームが、ラットの頭部移植手術に成功した。

患者に見立てた小さなラットの頭部と前腕部を、身体のドナーである脳死したラットの頭の上に取り付け、ひとつの体に2つの頭部がある状態にする手術だ。ウェブマガジン「MOTHERBOARD」に掲載された画像から、患者、ドナー、血液供給役の3匹のラットを使った手術の様子がよくわかる。

手術の成功は、学術誌「CNS Neuroscience and Therapeutics」で発表された。頭部移植手術の課題とされていた脳への血流不足や免疫拒絶反応を解消する、この「双頭モデル」にたどり着いた経緯が説明されている。

sc-02.jpg

セルジオ・カナベーロと中国ハルビン医科大学のシャオピン・レン博士が参加した研究チームは、手術中に血液供給役として第3のラットを使い血液を確保する仕組みを示した。シリコンチューブでドナーと生きた第3のラットをつなぎ、脳に血液を送る。

研究者らは、移植後も患者役のラットの脳に損傷はなく、痛覚反応や角膜反射があったとしている。

カナベーロとレンは頭部移植の第一人者で、2015年5月に「人類初の頭部移植手術を2017年末に行う」と宣言。これまでラットとイヌの脊髄再生の実験を科学情報誌「New Scientist」で発表するなど、研究を重ねてきた。

【参考記事】ペニス移植成功で救われる人々

【参考記事】中国は今も囚人から臓器を摘出している?

サル、そして次は人間

2016年1月、カナベーロとレンはサルの頭部移植に成功したことを発表した。移植を受けたサルは術後に倫理的理由で安楽死させられるまで、神経の損傷なしに20時間生存したと、カナベーロは主張している。

今年12月に、ついに人間が頭部移植手術に臨む。患者は神経原性の筋萎縮症「ウエルドニッヒ・ホフマン病」という難病を患うロシア人コンピュータ科学者のバレリー・スピリドノフだ。


頭部移植手術を受ける予定のバレリー・スピリドノフ

この計画は科学界から大きな批判を受けている。倫理的問題に加え、カナベーロの研究結果からは手術が成功する十分な証拠がないとの指摘が多い。さらに手術が失敗した場合、スピリドノフは想像を絶する痛みを味わう可能性がある。

カナベーロが2015年に初めてこの計画を発表したとき、米国神経外科学会のハント・バーチャー会長は、「誰もこんなことを望まないだろう。死んだほうがマシ」と言った。

頭部移植手術のイメージ


【参考記事】人類が完全なる人工心臓を手にする日はどこまで近づいた?

【参考記事】臓器売買に走るマイクロクレジットの闇

【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガリニューアル!
ご登録(無料)はこちらから=>>

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米PCE価格指数、インフレ率の緩やかな上昇示す 個

ワールド

「トランプ氏と喜んで討議」、バイデン氏が討論会に意

ワールド

国際刑事裁の決定、イスラエルの行動に影響せず=ネタ

ワールド

ロシア中銀、金利16%に据え置き インフレ率は年内
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された米女優、「過激衣装」写真での切り返しに称賛集まる

  • 3

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」──米国防総省

  • 4

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 5

    アカデミー賞監督の「英語スピーチ格差」を考える

  • 6

    大谷選手は被害者だけど「失格」...日本人の弱点は「…

  • 7

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP…

  • 8

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 9

    「性的」批判を一蹴 ローリング・ストーンズMVで妖…

  • 10

    「鳥山明ワールド」は永遠に...世界を魅了した漫画家…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 10

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 3

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈する動画...「吹き飛ばされた」と遺族(ロシア報道)

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中