最新記事

アメリカ政治

トランプのロシア疑惑隠し?FBI長官の解任で揺らぐ捜査の独立

2017年5月10日(水)18時24分
イリアス・グロール

ある元情報員は、コミーの解任は司法省のローゼンスタイン副長官への権力の集中を意味する可能性があると言う。司法省長官のセッションズは、昨年2度にわたって駐米ロシア大使と会いながら黙っていたとして、ロシアの大統領選関与疑惑の捜査の監督からは身を引いている。この件ではローゼンスタインがトップなのだ。

同情報員は、ローゼンタールがコミー解任を求めるメモでいかにコミーを酷評しているかを見れば、司法省がいかにコミーを憎んでいたかがわかるという。私用メール問題でクリントンの刑事訴追を勧告しない考えだと公表したことにも、司法省は猛反対した。

大統領によるFBI長官の解任は、初めてのことではない。ビル・クリントン大統領は1993年、ウィリアム・セッションズFBI長官を倫理違反の疑いで解任した。

トランプはここ最近、コミーとの確執を隠そうともしなかった。コミーの行動は、「ヒラリー・クリントンにとって人生最良の出来事だった。数々の悪行を無罪放免にしてもらったのだから!」とツイートもしていた。

トランプがバラク・オバマ前大統領の命令で盗聴されていたと証拠もなく主張したとき、コミーは激怒していたと報道されている。情報関係者が一様に盗聴の事実を否定し、最終的にコミーが、トランプの不穏当な主張を裏づける証拠は何もないと議会で証言した。

【参考記事】「オバマが盗聴」というトランプのオルタナ・ファクトに振り回されるアメリカ政治


コミーにも、過去に失態がなかったわけではない。捜査員がクリントンの新たなメールを発見すると、その中身もろくに吟味せずに、大統領選のわずか11日前に捜査を再開すると公表した(投票日の直前に何も不正の証拠はなかったとして捜査終了)。有権者にはまるでクリントンが有罪だったかのような印象が残り、トランプ逆転のきっかけになった。クリントンもこれを敗因として挙げている。

【参考記事】メール問題、FBIはクリントンの足を引っ張ったのか?

ホワイトハウスのショーン・スパイサーは報道陣に、コミーは「少し前に解任を知らされた」と言った。そして「直ちに発効する」と。

衆人環視の中で

コミー解任の知らせにワシントンは驚いた。ホワイトハウスは、議会幹部にも決定の理由を知らせる気がないようだった。

上院民主党の重鎮、ディック・ダービン上院議員は、トランプとロシアの関係についてのFBIの捜査を妨害しようとするいかなる試みも「重大な憲法違反」の可能性があるとし、独立の委員会か調査官を任命するよう求めた(共和党の賛同者は少なかった)

だが、コミーの解任劇で、トランプ陣営とロシアの関与疑惑はいっそう強まるばかりだろう。

FBI職員の士気にも影響しそうだ。「頬にびんたを、腹にパンチを食らったような気分だ」と、元職員は言った。

FBI長官その人も、最後の瞬間に不意打ちを食らった。コミーはロサンゼルスでFBIの求人イベントで演説していた。その時、テレビでコミー解任のニュースが流れたというのだ。

これがトランプ=ロシア疑惑の真相解明にとって、暗いサインにならなければいいが。

(翻訳:ガリレオ)

From Foreign Policy Magazine

【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガリニューアル!
毎日配信のHTMLメールとしてリニューアルしました。
リニューアル記念として、メルマガ限定のオリジナル記事を毎日平日アップ(~5/19)
ご登録(無料)はこちらから=>>

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アフガニスタン北部で洪水、315人死亡

ワールド

プーチン大統領、ショイグ国防相を交代 後任にベロウ

ビジネス

ノババックス、サノフィとコロナワクチンのライセンス

ビジネス

中国高級EVのジーカー、米上場初日は約35%急騰
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岸田のホンネ
特集:岸田のホンネ
2024年5月14日号(5/ 8発売)

金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口......岸田首相がニューズウィーク単独取材で語った「次の日本」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 2

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 3

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 4

    地下室の排水口の中に、無数の触手を蠢かせる「謎の…

  • 5

    横から見れば裸...英歌手のメットガラ衣装に「カーテ…

  • 6

    ブラッドレー歩兵戦闘車、ロシアT80戦車を撃ち抜く「…

  • 7

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 8

    アメリカでなぜか人気急上昇中のメーガン妃...「ネト…

  • 9

    「終わりよければ全てよし」...日本の「締めくくりの…

  • 10

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 3

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 4

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 5

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 6

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 7

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 8

    ウクライナ防空の切り札「機関銃ドローン」、米追加…

  • 9

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中