最新記事

サウジアラビア

中東の盟主サウジアラビアが始めたアジア重視策

2017年5月9日(火)10時30分
オーウェン・ダニエルズ(アトランティック・カウンシル アシスタントディレクター)

アメリカはどうか。シェール革命のおかげで今のアメリカは石油大国になったが、サウジが中東における最大の貿易相手国である事実に変わりはない。サウジは約180億ドルの米国産品を輸入する一方、対米輸出も約170億ドルに上っている。

トランプ新大統領と会談したムハンマド副皇太子は、さっそくビジョン2030を売り込んだ。事後にトランプ政権が発表した文書によると、相互利益と両国における「何百万」もの雇用創出をもたらす2000億ドル規模の合弁事業を含む経済協力について協議したという。

ただし、サウジが前のめりで親米路線を突き進むには大きな障害がある。昨年9月に米議会で成立した「テロ支援者制裁法(JASTA)」だ。副皇太子の訪米直後には9.11米同時多発テロの犠牲者遺族800人と負傷者1500人が、この法律に基づいてサウジアラビア政府を提訴している。

サウジのハリド・ファリハ石油鉱物資源相は、「是正措置」が講じられるだろうと楽観的な発言をしたが、サウジの対米投資意欲が冷え込み、予定されるサウジ・アラムコのIPO(新規株式公開)の市場選定に影響するかもしれないとも語った。

昨年10月にはサウジの政府系投資ファンドPIFが、日本のソフトバンクグループと共に設立するファンドに450億ドルを拠出すると発表した。これもJASTAがらみの緊張でアジア企業が得をする可能性を示している。しかしJASTA成立を拒否権で阻止しようとしたオバマ前大統領の行為を「恥知らず」と呼んだトランプが、この法律を修正する見込みはない。

そんな事情もあってか、サウジ側が会談後に発表した文書はもっぱら、安全保障面の協力関係に焦点を当てていた。トランプ政権の出方が予測不能で、アメリカがサウジの原油に依存していない現状では、両国を結び付ける鍵はイランという名の共通の脅威しかないのだろう。ちなみにムハンマドは、メキシコ国境の壁建設やイスラム教徒の入国一時停止といった強権的な政策に異議を唱えず、「内政不干渉」で片付けている。

【参考記事】イスラエルとサウジの接近で思い出す、日本大使館のスパイの話

中国とドローン生産も

トランプ政権はイエメン内戦に介入し、イランが背後にいるとされるシーア派武装勢力ホーシー派を攻撃するだろうか。予測は不能だが、市民の巻き添えを恐れて慎重だったオバマ政権よりは積極的に動くだろう。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

豪政府が予算案発表、インフレ対策盛り込む 光熱費・

ワールド

米台の海軍、非公表で合同演習 4月に太平洋で=関係

ワールド

バイデン大統領、対中関税を大幅引き上げ EVや半導

ビジネス

独ZEW景気期待指数、5月は予想以上に上昇 22年
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 2

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少子化の本当の理由【アニメで解説】

  • 3

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 4

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 5

    年金だけに頼ると貧困ライン未満の生活に...進む少子…

  • 6

    「ゼレンスキー暗殺計画」はプーチンへの「贈り物」…

  • 7

    アメリカからの武器援助を勘定に入れていない?プー…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    「人の臓器を揚げて食らう」人肉食受刑者らによる最…

  • 10

    ブラッドレー歩兵戦闘車、ロシアT80戦車を撃ち抜く「…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 4

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 7

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 8

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 9

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 10

    ウクライナ防空の切り札「機関銃ドローン」、米追加…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中