最新記事

中朝関係

北朝鮮をかばい続けてきた中国が今、態度を急変させた理由

2017年5月9日(火)21時45分
高口康太(ジャーナリスト、翻訳家)

4月28日、国連安保理の北朝鮮に関する会合で発言した中国の王毅外相 Stephanie Keith-REUTERS

<中国の北朝鮮制裁は長年「やるやる詐欺」だったが、その理由は本当に「血の同盟」あるいは「戦略的緩衝地帯」だったのか。なぜ今になって制裁を履行し始めたのか>

中国と北朝鮮の関係に異変が生じている。

国連安保理・北朝鮮制裁委員会によると、北朝鮮の石炭輸出量は3月期に6342トンにまで減少した。1月期の144万トン、2月期の123万トンと比べると、壊滅的な数字だ。最大の輸入国だった中国が輸入をストップしたことが大きい。

従来、中国の北朝鮮制裁は「やるやる詐欺」だった。すなわち制裁そのものには合意しておきながらも、各種の抜け穴、口実を使って貿易を継続していたのだ。ところが今年2月になって中国政府は制裁の厳格な履行を宣言し、実際に石炭貿易がストップしたとみられる。

異変は貿易統計のみならず、官制メディアを使った舌戦にまで発展している。中国の人民日報や環球時報は北朝鮮の核実験及びミサイル発射実験について厳しく非難した。

中国メディアが強い言論統制下に置かれているのは周知の事実だ。2013年には鄧聿文・学習時報副編集長(当時)が「中国は北朝鮮を見捨てるべきだ」と題した記事を発表したが、同氏は停職処分を受け、記事はネットから削除された。4年後の今は中国官制メディアが先頭切って北朝鮮批判を展開しており、まさに隔世の感がある。

環球時報にいたっては「6回目の核実験が行われた場合、原油供給を大幅に縮小する」という脅しめいた文章まで掲載した。中国からの原油共有は北朝鮮にとっては生命線だ。

環球時報の論説は先走りが多く、政権の意向を代表しているとは言い難いが、それでも官制メディアの端くれであることに違いはない。北朝鮮にとっては猛烈なプレッシャーとなった。

北朝鮮も負けてはいない。朝鮮中央通信は中国官制メディアの報道を取り上げ、「米国に同調する卑劣な行為についての弁明だ」と批判。また、1992年の中韓国交正常化など韓国との関係についても取り上げ、「信義のない背信的な行動」だと強く非難した。

記事は「金哲」という個人名義で出されたもので、政府公式見解ではない形にすることでワンクッションを置いているが、婉曲的な批判ではない、名指しの抗議はきわめて異例と言える。

中国にとって北朝鮮はむしろ火薬庫

なぜ中国は態度を急変させたのか。このことを考えるためには、まず中国がなぜ北朝鮮をかばってきたのかを考える必要がある。

中国と北朝鮮の関係について、よく言われるのが「血の同盟」、朝鮮戦争をともに戦った仲間というつながりがあるというロジックだ。

同じ社会主義陣営な上に、肩を並べて米帝(アメリカ帝国主義)と戦った仲間だからと言われると納得したくなってしまうが、社会主義陣営は一枚岩ではないのは中国と旧ソ連の関係を見てもわかるとおり。情を重んじた、あまりにナイーヴな理解ではなかろうか。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

英中銀が金利据え置き、総裁「状況は正しい方向」 利

ビジネス

FRB「市場との対話」、専門家は高評価 国民の信頼

ワールド

ロシア戦術核兵器の演習計画、プーチン氏「異例ではな

ワールド

英世論調査、労働党リード拡大 地方選惨敗の与党に3
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岸田のホンネ
特集:岸田のホンネ
2024年5月14日号(5/ 8発売)

金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口......岸田首相がニューズウィーク単独取材で語った「次の日本」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必要な「プライベートジェット三昧」に非難の嵐

  • 3

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 4

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 5

    休養学の医学博士が解説「お風呂・温泉の健康術」楽…

  • 6

    「自然は残酷だ...」動物園でクマがカモの親子を捕食…

  • 7

    この夏流行?新型コロナウイルスの変異ウイルス「FLi…

  • 8

    テイラー・スウィフトの大胆「肌見せ」ドレス写真...…

  • 9

    ロシア軍兵舎の不条理大量殺人、士気低下の果ての狂気

  • 10

    上半身裸の女性バックダンサーと「がっつりキス」...…

  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 3

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 4

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 5

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 6

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 7

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 8

    テイラー・スウィフトの大胆「肌見せ」ドレス写真...…

  • 9

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 10

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 7

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 8

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中