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中朝関係

北朝鮮をかばい続けてきた中国が今、態度を急変させた理由

2017年5月9日(火)21時45分
高口康太(ジャーナリスト、翻訳家)

「核の脅威」に鈍感だった日中韓

気がつけば北朝鮮は北京をやすやすと射程に収める核ミサイルを擁している。客観的に見れば、中国政府の優先順位付けは明らかに失敗だったというしかない。いや、中国に限らない。韓国、日本もすでに北朝鮮の核の脅威にさらされていることを考えれば、日中韓3カ国にとって、現在の北朝鮮問題は遅すぎた対応と言わざるを得ない。

もっとも、上述の平可夫氏によると、大陸間弾道ミサイル(ICBM)の開発はきわめて高度な技術的課題を抱えており、先日の平壌市軍事パレードでお披露目されたICBMは明らかに"張り子の虎"だという。

今後、北朝鮮が開発を進めたとしても、米本土まで届く長距離ICBMを開発できるかどうかは未知数。それほど高い技術的ハードルがあると平氏は指摘する。

だからといって、多分大丈夫だろうでは済まされないのが(本来の)外交、安全保障の世界だ。現在の北朝鮮問題で、新たな変数は米国の抱く危機感である。

米国は今、北朝鮮の核開発阻止に本気の対応を示している。なにもオバマ政権からトランプ政権に変わったから米国の姿勢が変化したわけではない。安全保障の原則から見て当然の行動と受け止めるべきだろう。

上述したように目標達成か否かによって外交を判断するのであれば、米国が北朝鮮による米本土を射程に収めた核ミサイル開発の阻止を絶対条件にすることは間違いない。さまざまな交渉、妥協が行われるだろうが、米国にとっての譲れない一線は北朝鮮に長距離ICBMを保有させないことである。

こうした前提を理解すれば、中国の姿勢の変化も理解できる。中国と北朝鮮という変数だけを見れば"時すでに遅し"だが、米国が実際に軍事行動に移りかねないという局面を迎えた今、北朝鮮の核開発阻止に関する優先順位は上がり、中国共産党も政治的リソースを使ってまで北朝鮮政策を変化させる時期を迎えたのだ。

整理をすると、日中韓にとってはすでに北朝鮮の核を抑止するタイミングを逃しているが、米国にとってはこれからが本番というねじれた状況にあるということだ。

本気モードになった米国と北朝鮮がどのように交渉するのかが主軸だが、日中韓の立場に立てば、両国の交渉にどのように関わり、どれだけ国益を引き出せるかが問われている。北朝鮮に対して一番多くのカードを持つ中国が先行している中、日本はどのように国益を得られるだろうか。

【参考記事】ニューストピックス「朝鮮半島 危機の構図」

[筆者]
高口康太
ジャーナリスト、翻訳家。1976年生まれ。千葉大学人文社会科学研究科(博士課程)単位取得退学。独自の切り口から中国・新興国を論じるニュースサイト「KINBRICKS NOW」を運営。著書に『なぜ、習近平は激怒したのか――人気漫画家が亡命した理由』(祥伝社)、『現代中国経営者列伝 』(星海社新書)。

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