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中朝関係

中国は北朝鮮問題で得をしているのか?

2017年5月25日(木)08時00分
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

それまでの1カ月間ほど、中国の中央テレビCCTVで、「中華人民共和国誕生以来の最大の歴史的な行事」として讃えに讃え、興奮した声でテレビ画面が割れやしないかと後ろに引きたくなるほどの勢いだった。

全世界の、どれくらいの首脳が出席するか、どれくらいの国が代表を送ってくれるか、そのことに中国は最大の関心を払っていた。だからアメリカと日本が代表を送り込んでくることが決定したときには、まるで「勝利宣言」のような報道のしようだったのである。

4月6日、7日の米中首脳会談の成果として、CCTVは「習近平国家主席がトランプ大統領に一帯一路サミットに参加するよう申し入れた」ことを一番大きく扱っていた。すでにアメリカが承諾したかのようなニュアンスを込めていた。

だから日米の代表も参加する一帯一路サミットは、習近平にとって「世界的な晴れの舞台」で、そこに北朝鮮代表を招待することによって、「中国が主張する対話路線の勝利」を、全世界にアピールしたかったのである。

そんな習近平は今、地獄に突き落とされたような気持でいるだろう。

それならすぐに4月20日に脅したように、一刻も早く中朝国境封鎖をすればいいのである。4月20日に北朝鮮が「核実験をする」と通告してきたとき、中国は「もし核実験をしたら、中朝国境を封鎖する」と威嚇した。そのことをCNNがスクープして伝えた。

正に水面下で行なっていた威嚇と譲歩の交渉を明るみに出された北朝鮮は、自国民に見下されないためにも、習近平を最も傷つける形でミサイルを発射した。このタイミングを狙う必要もなかろうに、わざわざ「世界的な晴れの舞台」に照準を合わせてミサイルを発射し、中国を裏切って見せたのである。

経済制裁を強化するとしながら、同時にグローバル経済のトップを行くと中国が位置づけているサミットに呼び、その会場の椅子に北朝鮮代表が座っている状態で習近辺を堂々と裏切る。

これはつまり、「さあ、お前たち、何もできまい」と、北朝鮮が中国に対しても上から目線でいることの証拠だ。

北朝鮮という国は、かつて中国の兄貴分であったソ連が建国した国。

それ以来北朝鮮は、「ソ連」を利用して弟分の分際でしかない中国に、横柄な態度を取り続けてきた。

その態度がどんどんひどくなっていくので、習近平政権になってから中朝首脳会談も行っていない。

しかし中国にはいま、すぐには中朝国境封鎖に出られない事情がある。

それは今年秋(おそらく11月)に第19回党大会があるからだ。

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