最新記事

IT

アマゾンのホールフーズ買収は止めるべきか

2017年6月22日(木)20時33分
ジェームズ・ペソコウキス(米アメリカン・エンタープライズ研究所研究員)

トランプにも独禁法でやっつける、と言われたアマゾンのベゾスCEO Joshua Roberts-REUTERS

<ただでさえアメリカの家計支出に占めるアマゾンの割合は増える一方なのに、このまま放っておいたら独占小売業になってしまう?>

アマゾンが米高級食材大手のホールフーズを137億ドルで買収したことは、ビジネスと消費者にとてつもない影響を及ぼす。短期的には、これまで地味だった食材ビジネスが面白くなる。長期的に見れば、既存の小売業との競争を選んだアマゾンやウォールマートの決断は、激変するグローバル経済の支配者を争う戦争の前哨戦になるはずだ。

【参考記事】高級スーパー「ホールフーズ」を買収したアマゾンの野望とは?

ホールフーズの買収は、政治的にも見逃せない。このニュースを聞いてすぐに筆者が思い出したのは、昨年の米大統領選中のドナルド・トランプの発言だ。米FOXニュースに出演したときは、アマゾンやジェフ・ベゾスCEO(最高経営責任者)について次のように語った。

「ワシントン・ポストを所有しているのは、アマゾンを支配するジェフ・ベゾスだ。アマゾンは盛大な課税逃れをしている。ベゾスはワシントン・ポストを利用してワシントンの政治家を動かし、本来払うべき税金を払わずにすませている。税制や独占禁止法の抜け道を作っている」

「ベゾスは独禁法で私にやられると思っている。重大な違反があるからだ。アマゾンはあまりに多くの分野で独占的な地位にある」

最近になって、「政治的な圧力が強まれば、米連邦取引委員会(FTC)はより多くの企業合併を止めに入る」ことを裏付ける証拠もいくらか出てきた。

今後トランプがアマゾンを標的にしたツイートを打つかどうかに注目だ。

脅威にさらされる自由市場

超党派から批判される可能性もある。左寄りの米シンクタンク、ニュー・アメリカ財団のバリー・リンはこう述べている。


アマゾンは今日、ホールフーズを137億ドルの現金で買収すると発表した。もし規制当局が承認すれば、競争的で開放されたアメリカの市場にとって大きな打撃となる。アマゾンのおかげで、既にかなり傷ついているのだが。

アマゾンは既に電子商取引の隅々まで独占している。そしてアメリカ人が売買する重要な製品の価格を支配している。今アマゾンはその価格決定力を実店舗にまで広げようとしている。

だがそれは、アメリカが抱えるアマゾン問題の一部にすぎない。アメリカの書籍や音楽などの市場でアマゾンは既に独占的な力をもし、情報やアイデアの流通についても急速に支配しつつある。

デジタル革命は本来、アメリカ人をもっと自由にしてくれるはずだった。だが、ここ20年ほどの間違った独禁政策のせいで、一握りの巨大企業に商取引と通信を再編させてしまった。

アメリカ人はもっと早い段階で、政府にアマゾンへの圧倒的な権力集中に立ち向かい、デジタル革命の潜在力をフルに実現するよう求めるべきだった。

独禁法当局は、アマゾンのホールフーズ買収を阻止するべきだ。それに加えて、アマゾンのあらゆる反競争的な行為を調査すべきだ。米議会も、競争的で開放的な市場や情報とアイデアの自由な流れを守るため、アマゾンの増大する脅威に対処する責任があると肝に銘じるべきだ。

【参考記事】アマゾンついにリアル市場へ 日本での提携先を大胆予想 !

アマゾンにフェイスブック、アップル、アルファベット(と傘下のグーグル)、マイクロソフトを加えた巨大IT企業「ビッグ5」を警戒する見方は、左派の人々の間でとりわけ顕著だ。彼らは莫大な富とデータを独占した巨大企業が、経済を牛耳っていると見る。

アマゾンが小売独占企業になる?

バラク・オバマ前政権下の労働省でチーフ・エコノミストを務めたベッツィ・スティーブンソンは、ツイッターにこう投稿した。「家計支出にアマゾンが占める割合が増加している。アマゾンは、アメリカの小売独占業者になる戦略を成功させるかもしれない」

米ニュースサイトのアクシオス(Axios)は先日の記事で、銀行のアナリストの以下のようなコメントを紹介した。「このままいけば最終的に、ポピュリストたちがシリコンバレーに集中する富を分配せよと、声を上げるだろう。技術資本と人的資本の格差がかつてなく広がっている」

アメリカの進歩主義者の多くは既に、IT「ビッグ5」に対する規制強化と独禁政策の強化を進めることで、富を再分配するよう求めてはじめている。米紙ウォール・ストリート・ジャーナルで金融を担当するデニス・バーマンは、ツイッターにこんなジョークを書き込んだ。


アマゾンが2025年に分割されるとしたらどうなるだろう。商取引、ウェブサービス、メディア、物流サービス、人工知能(AI)、ゲノム解析......分割しても独占か。

【参考記事】ヤマト値上げが裏目に? 運送会社化するアマゾン

ちなみに筆者は、巨大企業がアメリカの民主主義と経済に脅威をもたらす、という見方には懐疑的だ。

(翻訳:河原里香)

This article first appeared on the American Enterprise Institute site
.

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:ミャンマー内戦、国軍と少数民族武装勢力が

ビジネス

「クオンツの帝王」ジェームズ・シモンズ氏が死去、8

ワールド

イスラエル、米製兵器「国際法に反する状況で使用」=

ワールド

米中高官、中国の過剰生産巡り協議 太陽光パネルや石
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岸田のホンネ
特集:岸田のホンネ
2024年5月14日号(5/ 8発売)

金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口......岸田首相がニューズウィーク単独取材で語った「次の日本」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 2

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 3

    ウクライナ防空の切り札「機関銃ドローン」、米追加支援で供与の可能性

  • 4

    過去30年、乗客の荷物を1つも紛失したことがない奇跡…

  • 5

    「少なくとも10年の禁固刑は覚悟すべき」「大谷はカ…

  • 6

    中国のホテルで「麻酔」を打たれ、体を「ギプスで固…

  • 7

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 8

    この夏流行?新型コロナウイルスの変異ウイルス「FLi…

  • 9

    礼拝中の牧師を真正面から「銃撃」した男を逮捕...そ…

  • 10

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 3

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 6

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 7

    テイラー・スウィフトの大胆「肌見せ」ドレス写真...…

  • 8

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 9

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 10

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 7

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 8

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中