最新記事

中国

中国シェア自転車「悪名高きマナー問題」が消えた理由

2017年6月26日(月)11時45分
高口康太(ジャーナリスト、翻訳家)

マナー意識は確実に向上してきた

ここまで紹介してきたように、マナーを守らせるシステムの要因は大きいのだが、実際に中国で取材を続けていると、それだけではないのではないかと思うようになった。もう1つの要因がある。それは実際、中国人のマナー意識が向上しているという点だ。

過去10年間は中国が国際的な存在感を飛躍的に高めた時代である。北京五輪や上海万博などの国際的スポーツイベントが開催され、「恥ずかしくないホスト国になりましょう」という大々的なマナーアップキャンペーンが開催された。

海外旅行が一般人にも手の届くサービスとなったが、海外での恥ずかしいマナー違反がたびたびニュースになるなか、やはりこちらもマナー教育に力が入れられている。日本も1964年の東京オリンピックが国民意識を変える大きなきっかけになったと言われている。中国でも同様の変化が起きつつあるのではないか。

また、中国の大都市部でよく目にするのは「意識高い系」のカフェやグッズの数々だ。日本の無印良品も中国ではそうしたブランドの1つと認識されており、たんに便利で品質がいいからではなく、シンプルでスタイリッシュなイメージがブランドへの信仰につながっている。

「中国、とりわけ都市部の人々は、海外の人々と直接接する機会が増えるなかで、このままでは恥ずかしい、経済面だけではなくマナーの面でも外国に優越しなければ――そんな思いがあるのではないでしょうか。なにせ中国はメンツの国ですからね。マナーでも負けてはいられないと思うのではないでしょうか。ドイツ系の私立幼稚園など超高額の費用が必要なんですが、それでも皆が争って子どもを入れようとするのは、それだけ文明人になりたいという思いが強いからではないかと考えています」

これは筆者の知人である在中国日本人の言葉だ。たんに評価システムにしばられているのではなく、マナーを向上させたいという熱い思いがあるのだろう。

日本では「意識高い系」というとバカにするような意味合いで使われることも多いが、中国で展開されている意識高い系ブランドやそこに群がる人々にはそうしたてらいはない。ただひたすらに文明人になろうと邁進している。

日本は今やさまざまな分野で中国に追い抜かれているが、そうした中でも日本社会の優位性として讃えられるのがマナーの良さや紀律だ。だが、もしこのまま中国人がマナー面でも真摯に学び続けたら......。あるいはこの分野でも「日中逆転」が起こりうるのかもしれない。

[筆者]
高口康太
ジャーナリスト、翻訳家。1976年生まれ。千葉大学人文社会科学研究科(博士課程)単位取得退学。独自の切り口から中国・新興国を論じるニュースサイト「KINBRICKS NOW」を運営。著書に『なぜ、習近平は激怒したのか――人気漫画家が亡命した理由』(祥伝社)、『現代中国経営者列伝 』(星海社新書)。

【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガリニューアル!
 ご登録(無料)はこちらから=>>

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

バイデン大統領、対中関税を大幅引き上げ EVや半導

ビジネス

独ZEW景気期待指数、5月は予想以上に上昇 22年

ワールド

プーチン大統領、16-17日に訪中 習主席との関係

ワールド

ゼレンスキー氏、支援法巡り米国務長官に謝意 防空の
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 2

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少子化の本当の理由【アニメで解説】

  • 3

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 4

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 5

    年金だけに頼ると貧困ライン未満の生活に...進む少子…

  • 6

    「ゼレンスキー暗殺計画」はプーチンへの「贈り物」…

  • 7

    アメリカからの武器援助を勘定に入れていない?プー…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    「人の臓器を揚げて食らう」人肉食受刑者らによる最…

  • 10

    ブラッドレー歩兵戦闘車、ロシアT80戦車を撃ち抜く「…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 4

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 7

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 8

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 9

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 10

    ウクライナ防空の切り札「機関銃ドローン」、米追加…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中