最新記事

日ロ関係

北方領土交渉の「新アプローチ」は幻に

2017年7月21日(金)10時15分
ジェームズ・ブラウン(テンプル大学日本校准教授)

国後島のユジノクリルスクのロシアの庁舎前の風景(15年9月撮影) Thomas Peter/REUTERS

<領土問題解決の環境整備を図りたい日本だが、ロシアは態度を硬化させている>

日本の安倍晋三首相とロシアのプーチン大統領は仲がいい。先のG20首脳会議に合わせて行われた両者の会談は、実に18回目。直前に行われた米ロ首脳の初会談が長引き開始こそ大幅に遅れたが、約50分の会談のうち15分は通訳を交えて両首脳だけで行われるなど、おおむね良好に進んだらしい。

平和条約や経済協力、北朝鮮問題などが話し合われ、9月にウラジオストクで開かれる東方経済フォーラムへの安倍の参加も確認された。これぞロシアに対する「新しいアプローチ」の成果、と安倍は自慢したいようだが、現実はそう甘くない。

昨年5月の日ロ首脳会談で発表されたこの新アプローチは、ハイレベルの政治対話や両国の交流促進に向けた「8項目の経済協力プラン」から成り、日本としては北方領土問題の解決に向けた環境整備につなげたい考えだ。また14年のウクライナ侵攻で国際社会から孤立したロシアが中国に急接近しているため、日本としては両国が反日で手を結ぶ事態を避けたいところだ。

【参考記事】ロシアが北朝鮮の核を恐れない理由

現時点で日ロ両国は、北方領土での共同経済活動の実施で合意している。これは昨年12月の日ロ首脳会談の最大の成果とされる(この会談はG7による対ロ制裁が続くなか、オバマ米大統領の説得を無視する形で行われた)。この共同経済活動はロシアの法律ではなく、「特別な制度」の下で行うとされている。そうすれば日本はロシアの主権を認めることなく経済活動に参加でき、日本のプレゼンスを再構築することもできる。

この合意を、ロシアが主権問題で譲歩する意思の表れと捉え、ゆくゆくは両国による共同統治の道も開かれるのではないかと楽観視する向きもある。

3月には水産加工や医療、観光などを中心に、具体的な事業案の検討が始まった。6月下旬には日本の官民調査団が現地に派遣され、団長を務めた長谷川栄一首相補佐官は「有望な分野が多い」と述べたものだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

株式・債券ファンド、いずれも約120億ドル流入=B

ワールド

中国、総合的な不動産対策発表 地方政府が住宅購入

ビジネス

アングル:米ダウ一時4万ドル台、3万ドルから3年半

ワールド

北朝鮮、東岸沖へ短距離ミサイルを複数発発射=韓国軍
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 2

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた異常」...「極めて重要な発見」とは?

  • 3

    存在するはずのない系外惑星「ハルラ」をめぐる謎、さらに深まる

  • 4

    羽田空港衝突事故で「日航の奇跡」を可能にした、奇…

  • 5

    「円安を憂う声」は早晩消えていく

  • 6

    老化した脳、わずか半年の有酸素運動で若返る=「脳…

  • 7

    アメリカはどうでもよい...弾薬の供与停止も「進撃の…

  • 8

    共同親権法制を実施するうえでの2つの留意点

  • 9

    日鉄のUSスチール買収、米が承認の可能性「ゼロ」─…

  • 10

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中