最新記事

単独インタビュー

ヘンリー王子が語った母の死と英王室(前編)

2017年7月25日(火)18時00分
アンジェラ・レビン(ジャーナリスト)

ヘンリーは傷病兵によるスポーツ大会「インビクタス・ゲーム」を創設した Chris Jackson-REUTERS

<ダイアナ元妃の急死による喪失感と心の傷に向き合い、自分探しを続けるヘンリー王子に本誌が単独インタビュー>*この記事はニューズウィーク日本版2017年7月4日号に掲載したものです。

葬送の列はいつだって悲しい。でもあれは最高に残酷で、最高に悲しい光景だった。1997年の9月6日、まだ12歳のヘンリー王子は父チャールズ皇太子や兄ウィリアム王子らと並んで、わずか1週間前に亡くなった愛する母のひつぎの後を黙々と歩いた。しかも衆人環視の下で。

ダイアナ元妃がパリで、謎の交通事故で世を去ったのは20年前の8月31日。すっかり大人になったヘンリー(32)だが、あの悲しい日のことを思うと今も胸が張り裂けそうになるという。

「母親が死んじゃって、そのひつぎに従って長々と歩かされた。周りで数千人が僕を見ていて、それをさらに数百万人がテレビで見ていた」。ヘンリーはそう言って顔を曇らせた。「どんな状況であれ、子供にあんなことをさせちゃいけない」

henryinter03.jpg

母のひつぎの後ろをヘンリー(右から2人目)は黙々と歩いた Anwar Hussein/GETTY IMAGES
 

母の死と、葬儀の日の悪夢による心の傷はなかなか癒えず、ずっと気持ちの整理がつかなかった。だからたばこも酒もやり過ぎた。仮装パーティーでナチスの軍服を着て批判されたこともある。12年にはラスベガスのホテルで羽目を外した「ヌード写真」が流出した。世界中の女性が憧れる独身男は英王室の頭痛の種でもあった。

でも今は違う。王族の輝きと親しみやすさ、自信とちゃめっ気を兼ね備えた(つまり母ダイアナによく似たキャラクターの)青年だ。王子はかつての反抗的なアウトサイダーから、世界で最高に「愛される王族」の1人へと変身しつつあるようだ。もちろん、リハビリには長い自分探しの旅が必要だったし、その旅はまだ終わっていない。しかし王子は自分がここまで立ち直れたことを誇りに思い、「王子以外の何か」でもありたいと語った。

【参考記事】エリザベス女王91歳の式典 主役の座を奪ったのはあの2人

昨年来、本誌はヘンリー王子の公務に同行する許可を得て取材を続けてきた。そして筆者は、ロンドン中心部にあるケンジントン宮殿での単独インタビューに成功した。

出迎えてくれたヘンリーは水色の開襟シャツにチノパン、グレーのスエードの靴というカジュアルないでたち。心を込めて熱心に語ってくれたが、ガードは固かった。しかし過去数年の自分の変化については、驚くほど率直に話してくれた。

この4月には英テレグラフ紙のポッドキャスト番組で、母の死をめぐる悲しみにふたをしたことで2年ほど「大混乱」に陥り、「破綻寸前」までいったと明かしている。そして28歳の時、ウィリアムの勧めもあって専門家に助けを求めたという。

「今では現実を直視して、周囲の人の声に耳を傾けるようになった。そして自分の立場を何かに役立てようと思っている。今はやる気満々。慈善事業も人を笑わせることも好きだ」と彼は言う。「今でも、自分が金魚鉢の中にいるような感覚を覚えることがある。でも自分を見失うことはなくなった。まだやんちゃな部分もあるが、だからこそ問題を抱えた人々に共感できる」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ECB、大きな衝撃なければ近く利下げ 物価予想通り

ワールド

プーチン氏がイラン大統領と電話会談、全ての当事者に

ビジネス

英利下げ視野も時期は明言できず=中銀次期副総裁

ビジネス

モルガンS、第1四半期利益が予想上回る 投資銀行業
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人機やミサイルとイスラエルの「アイアンドーム」が乱れ飛んだ中東の夜間映像

  • 2

    大半がクリミアから撤退か...衛星写真が示す、ロシア黒海艦隊「主力不在」の実態

  • 3

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無能の専門家」の面々

  • 4

    韓国の春に思うこと、セウォル号事故から10年

  • 5

    中国もトルコもUAEも......米経済制裁の効果で世界が…

  • 6

    【地図】【戦況解説】ウクライナ防衛の背骨を成し、…

  • 7

    訪中のショルツ独首相が語った「中国車への注文」

  • 8

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 9

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 10

    「アイアンドーム」では足りなかった。イスラエルの…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体は

  • 3

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...当局が撮影していた、犬の「尋常ではない」様子

  • 4

    ロシアの隣りの強権国家までがロシア離れ、「ウクラ…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    NewJeans、ILLIT、LE SSERAFIM...... K-POPガールズグ…

  • 7

    ドネツク州でロシアが過去最大の「戦車攻撃」を実施…

  • 8

    「もしカップメンだけで生活したら...」生物学者と料…

  • 9

    帰宅した女性が目撃したのは、ヘビが「愛猫」の首を…

  • 10

    猫がニシキヘビに「食べられかけている」悪夢の光景.…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 7

    巨匠コンビによる「戦争観が古すぎる」ドラマ『マス…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中