最新記事

中国

建軍90周年記念活動から読み解く習近平の軍事戦略

2017年8月2日(水)16時15分
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

それまでの陸軍の「7大軍区」を撤廃して、「5大戦区(東部・南部・西部・北部・中部戦区)」を設置し、さらに「いざというとき」には、習近平・中央軍事委員会主席(=中共中央総書記)が直接指令を下せば戦区と軍種(陸海空軍+ロケット軍+戦略支援部隊)が一斉に動くという形にした。

これは建国以来、(旧)ソ連を模倣してきたのを撤廃して、アメリカ大統領のように、国のトップが「軍の最高司令官」として直接命令を下すことができる命令指揮系統に持っていきたかったからだ。それまでの7大軍区を治める「総参謀部、総政治部、総装備部、総后勤部」は腐敗の坩堝(るつぼ)と化していただけでなく、命令指揮系統をだぶつかせていたので、それらの迂回ルートも撤廃した。

アメリカ式に転換することによって、「アメリカに追いつき追い越せ」という軍事戦略を実施していき、効率と即戦力を高め、軍事的にも世界のトップに立とうという野望に満ちた軍事大改革だった。

だからこそ、今般の建軍90周年記念の軍事パレードでは、野戦軍の真っただ中で、迷彩色の軍服に身を包んで軍事訓練基地で行なったのだ。中国語では軍事パレードという言葉を使わず、「閲兵式」と称しているが、誰か他人に見せる儀礼的なものではなく、砂塵舞う中で、兵士が軍用トラックに駆け付け乗り込むという段階からスタートした実践的な野戦状況を再現した閲兵式だった。だから儀仗兵はいない。

習近平は自分がその野戦の現場にいることと、兵士たちと同じ迷彩色の軍服を着用することによって、野戦現場の総司令官が習近平であるということと、軍は党の総書記の命令のもとにあるということを、兵士全員に深く印象付けることが目的であったと言っても過言ではない。

訓練が行き届いているせいもあろうが、兵士一人一人の目と表情は、「習近平」一点に精神の全てを注いでいるという緊張感と覚悟に満ちていた。

ふと、日本の防衛省のダラダラと長引いた不祥事を連想し、これは憲法改正以前の問題だろうと、嘆かわしい気持ちになったものだ。

軍民融合――人民大会堂における習近平のスピーチ

7月31日は人民大会堂で盛大な晩餐会が開催され、8月1日午前10時(北京時間)から、人民大会堂で習近平のスピーチがあった。

筆者として印象に残ったのは二つの言葉。

一つは「どんなに先進的な武器を持っていたとしても、戦う精神が十分でなければ勝利を収めることはできない」という主旨の言葉と「軍民融合」を強調したことである。

前者は、「勝利から勝利へ」あるいは「いつでも戦うことができ、戦ったら必ず勝つ」といった数多くのスローガンにより、これまでも「強軍大国化」として言われてきた言葉ではあるが、もっと重要なのは「党の精神に従い、党の指示が全てだ」という「党への絶対的な、永遠の忠誠」がなければならないと言ったことである。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米・イランが間接協議、域内情勢のエスカレーション回

ワールド

ベトナム共産党、国家主席にラム公安相指名 国会議長

ワールド

サウジ皇太子と米大統領補佐官、二国間協定やガザ問題

ワールド

ジョージア「スパイ法案」、大統領が拒否権発動
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    「隣のあの子」が「未来の王妃」へ...キャサリン妃の「ロイヤル大変貌」が話題に

  • 3

    「裸に安全ピンだけ」の衝撃...マイリー・サイラスの過激衣装にネット騒然

  • 4

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 5

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 6

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 7

    「すごく恥ずかしい...」オリヴィア・ロドリゴ、ライ…

  • 8

    時速160キロで走行...制御失ったテスラが宙を舞い、4…

  • 9

    日本とはどこが違う? 韓国ドラマのオリジナルサウン…

  • 10

    中国の文化人・エリート層が「自由と文化」を求め日…

  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 3

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 6

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 9

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中